返校 言葉が消えた日のレビュー・感想・評価
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原作に対する見事な返歌となっている一作。
本作の予習と思って原作であるゲーム版『返校』を体験したら、あまりの恐怖におののた(ホラーゲームは苦手…)観客による感想です。
予告編でも示されているように、本作の舞台は、「白色テロ」と呼ばれる、中国国民党政府による政治的弾圧の渦中にあった1960年代の台湾です。同様の時代を扱った映画としては、侯孝賢監督作品『非情城市』(1991)やエドワード・ヤン監督作品『牯嶺街少年殺人事件』(1991)などがありますが、本作にもこれらの作品を連想する要素が頻出します。この既視感は、単にこれらの作品の時代背景が類似している、というだけでなく、原作の『返校』自体、前述のようないわゆる「台湾ニューシネマ」の影響を強く受けていることも要因となっています。映画に影響を受けたゲームを映画化するという、本作自体が表題のごとく、「戻ってきた」ものなのです。
せっかく恐怖に打ち震えながら原作のゲームを体験したので、原作(ゲーム版)と映画版の違いを少し挙げておくと、原作は道教といった宗教的な要素を強く打ち出していますが、本作では政治的弾圧の側面を強調しています。特に幽霊の造形にその違いが顕著に表れています。
基本的な物語の筋は概ね一致していますが、映画版では男子学生ウェイの存在感が大きくなっている点が原作と最も大きな相違点です。また映画版では、全体的に原作ではあまり詳細に描かれなかった「読書会」や「弾圧」の描写にかなり力点を置いているため、原作では良く分からなかったところが上手く補われています。
女子学生ウェイの抱える鬱屈がかなり大きな意味を持っている作品ですが、原作は主人公二人の役割をはっきりと分けることで、この不気味かつ不可解な学校空間とウェイの心の関係がわかりやすくなっています。一方映画版では主人公二人をほぼ均等に描いているため、この空間が出現した意味がちょっと不鮮明となっていました。ここはちょっと残念なところです。
そんなごくわずかに気になるところはあるものの、全体的にとても良い作品でした。本作に感動した方は、原作のゲームを体験するとより一層味わい深いと思いますので、機会があればぜひおすすめしたいです(恐いけど)。
俺も、覚え続けます!
<鑑賞の前に知っておくとよい前知識>
第二次世界大戦が終わり、日本統治から脱却した台湾は、国民党政権下に入ったが、「イヌ(日本)が去って、ブタ(国民党)が来た」と人々に囁かれていた。特に、1947年の二・二八事件から1987年に戒厳令が解除されるまでの「白色テロ時代」、国民党は台湾国民に相互監視と密告を強制し、反政府勢力のあぶり出しと弾圧を徹底的に行った。
と、これだけの前知識を持って入ると、話がすんなり入ってくること、請け合いです。このシチュエーションはゲームのために空想されたものではなく、上記時代の台湾を実際に反映したものです。
台湾人が忘れてはならない負の歴史をストーリーに取り入れるという大胆な発想で大ヒットとなったホラー・ゲーム「返校」がもとです。
圧政のため学校内でも「禁書(読んではいけない本)」が当たり前な世界をおかしいと感じ、自由を求め続ける一部の先生と少数の生徒たちで秘密裏に行われる学校内の読書会。それを体制側(秘密警察)に密告したのはいったい誰か。どんな理由で密告したのか。それを謎解きしていく話。
これをホラーテイストの謎解きミステリー物として描く。ホラーは書いたようにホラーテイスト程度で自分でも耐えられるもの。ひんやりと、どうなることかと見続けるのは楽しい。
そこに描きだされるのは、残念ながら悲しい話だ。しかし、どんなことが行われてきたのかを知り、そこから抜け出そうとする動きがなぜ、どんな理由でつぶされてしまうのかを知ることは、今を生きる自分たちも、知っておくべき記憶しておくべき大切なこと。もっとも学ぶべきことは、「そうした環境下で密告しないためにはどうするか」 よりも、「こんな当たり前のことが "密告" という悲劇を生んでしまう、そんな状況を生み出したくない」 という気持ちだろう。みなが潜在的にその気持ちを持っていれば、自分の環境が "圧政" という忌むべき、きわめて不自由な状態になってしまうことを防げるのだと思う。
私たちには獣性があり、悪魔性ももっている。でも神性ももっている。
あなたは生き続けて。生きてさえいれば希望はある。生きていれば何かが起きる。誰かが生き続けて、全てを覚えておいてほしい。
夏の映画の半分くらいは、歴史からそれを思い出し学ぶ映画たちだが、本作はその中でも「エンターテインメント的で観やすく、かつ伝えてくる」いい映画だったと感じる。
「共産党のスパイ告発は、国民の義務です」
冒頭に流れるこの地域放送の声。いまはピンとこないかもしれないが、共産革命が全世界を席巻し始めた1950年前後には、戦々恐々とした民主主義国家の多くが似たような情勢にあった。いわゆる「赤狩り(Red Scare:共産主義の恐怖:共産主義者摘発公職追放活動)」に多くの民主主義国家が陥っていた。わすか70年前のことだ。戦時中日本の「(五人組という施策による)非国民狩り」等、密告により体制にあわない人たちをあぶりだす活動は、すぐにまた現れるかもしれないことを忘れないようにしよう。
「自分がこの人に政治をまかせたいと思う人に投票して選ぶ」権利をもち、「任せた人がなにを言い、なにを行ったか」を確認する権利をもつ世界が、なくなっていかないようにしたい。
ホラーとして観に行かないことをおススメ
シリアスな歴史物と勘違いして鑑賞
素晴らしい映像表現だが話はチープ
本作はどんな味付けを目指したのかなー?
予告編を見たときはこのような作品ではなく、独裁政権下の台湾の生徒達が自由と希望を求める社会派のヒューマンドラマなのかなぁ?と。まぁそのエッセンスもあると言えばありますが、あくまでもそれは「物語の舞台」であって、サスペンスホラーの味がメインかな?なんて思ってたら本作はゲームの映画化なんですね。ふむ、ちと無理な感じが。でも、ゲームは存じ上げませんが。
まず、巧みな構成力と表現の多さ、それらを形にするための実現力、資金力(だろうなぁ)に驚きです。色んな意味で贅沢を感じる作品でした。1シーンの作り込みにかなりの労力を割いていますね。雰囲気ありますよ。で、ストーリーでサスペンスやホラーを作ると言うことではなく、表現と構成力でその演出を作ってるのはすごいですね。
ただ、ストーリーがシンプルが故に、演出でこねくり回している感じがあるんですね。妙にややこしくしているとか、時間軸を混乱させるとか、視点を変えるとか、イメージの具現化をバンバン描いて、事実ではないことで怖がらせようという「ホラー演出のみ」感を強く感じてしまったのです。
例えとしては外れてる気がしますが、シン・エヴァのマイナス宇宙展開が、終始続いている感じなんですね。「さまざまな怖さの記憶」を演出に用いて、すっごくお金と手間かけて比喩・暗喩・イメージなどの表現をしてるように見えるのです。じゃぁ、ストーリーは?って思うとかなりチープなんですね。こんな結末なら独裁政権下の自由云々なんて背景いらなかったじゃん!と。厨二が原因やん!と。
思いっきり統制されている時代にこの厨二理由ないわぁ。え?結局お前らの淡くて偏重した恋心が全ての命奪ってんのかい!と。当時の辛い思いをされていた方々、命懸けで取り組んでいた人たちへの冒涜と違う?よくそんな軽々しいことできるなぁ・・・って、物語の核がわかってからの僕の気持ちの引き潮の速さたるや。スーーーーーーです。
こんな厨二に振り回される話なら、この題材である必要なかったやん。若気の至りを思いっきり超えています。
結局。サスペンスに見えるけど、怖がらせる目的で作られたモンタージュ描写の連続で目をくらましてるにすぎないと思いますし、話がチープすぎるので一気に安っぽく見えてしまいました。
最後は郷ひろみかよ!と心で突っ込んでる自分もいましたし。正直、気持ち悪かった。お前ら、なんなん?と。
とにかく観賞後は「あー、つかれた。」です。
比喩や例えが多すぎて、話が長い人と会ってた気分ですね。
金と時間を潤沢にかけられるのも問題だな、と思った残念作でした。
史実の方がホラーにピッタリだったって着目した作品
ホラーよりも怖いもの
序盤はシンプルな学園ホラーなシーンが中心。でも、学校に取り残された男女2人の高校生の過去のいきさつが分かってくるにつけ、ホラー的な恐怖が、言論統制という理不尽な権力への恐怖とすり替わっていった。血塗れの校舎よりも、優しく小さな言葉を口にする穏やかな眼差しのチャン先生、イン先生が処刑され、読書を楽しんでいた学生は拷問されること、そしてそれらが小さな密告で容易に行われることが何よりも怖い。
この白色テロの苛烈な状況をエンタメ作品とすることで、「表現の自由」を決して手放しはしないという強い思いを感じた。
すき。
ゲームが元ネタ。
という前情報だけで観に行ったので、かなり良かったです。
ストーリーも分かりやすくて、
自由と権利を奪われた世界で、
そこで恋した主人公。
すごい、いいじゃないですか。
彼女が私欲を優先させたから、
ああなってしまったのだな、と。
そう思うと、とても切ない。
ゲームの結末の種類がどうなってるのかは、存じ上げないですが、
コレがトゥルーなのだとしたら、
私欲ではなく、もし、
の結末はゲームには、存在しないのかな、とか。
彼女の愛が、
私欲や所有欲でなかったら、どうなっていたのかな。
と、想像したら、涙が止まらなかったです。
鹿と百合のモチーフも良かった。
好きな話でした。
良かった。
怖いよ
ヘビーで意欲的な作品、あらゆるギミックより怖いのは結局政治の色
想像よりもかなりヘビーな作品だった。原作はゲームらしいが、ホラーに政治的な背景を落とし込んだ世界が怖すぎて怖すぎて…。でも複合的な設定による変化はややノイズぎみだった。
独裁によって自由を禁じられていた時代の台湾。本もそれに従って相互監視が続いていた。その時点ですでに怖いのだが、そんな舞台で起こる不気味な夢。学校は様変わりし、何かに襲われる感覚が続く。序盤はゲーム譲りの先の読めない展開とギミックで背筋が凍る。また、近づいていく真実と襲いかかる気味悪さがホラーとしてのテイストを高めている。R-15+なだけあり、ビジュアルのグロさも一塩。息つく間もなく進む。
その一方、しれっと転調したことによるドラマと論点のすり替えには賛同できず。事実としても重く、心をすり減らすようなところではあるが、感情がついていけなかった。返って気づきにくかったので、受け止めるので精一杯。そこが惜しいところ。チャプターとして設定しているだけに、欲しかったところ。
関係ないのだが、レイシン役の子が何処となく小島藤子に似ていた。ふと垣間見える鋭い目つきや事実に触れたときの背徳心、そうしたリアリティが役者を基軸になりたっていたのが面白い。
政治的な色も混ざったホラー作品。かなり鋭利で怖かった。それ以上に怖かったのが、救いようのない時代に縛られた若者たちの姿。自由が許されない状況こそ、真の恐怖だったと感じる。
苦悶の象徴
苦悶いくもん♪と、なぜだか最後には公文式を思い出して楽しくなりましたが、「苦悶の象徴」とはいったいどんな本なのでしょう?そして、観終わってみると、ホラー映画だったのか恋愛映画だったのか国民党独裁による弾圧を描いた社会派映画だったのか・・・よくわからなくなってきました。
まず、悪夢。禁じられた本を読書会で読むウェイ・ジョンティンが拷問、投獄されて見る悪夢かと思っていたら、そこへ優等生の先輩女子ファン・レイシンが学校から抜け出そうとするのに脱出できなくなってしまう。彼女はチャン先生に恋する乙女だったのだが、そのチャン先生は地下組織でもある読書会のリーダー的存在。ウェイと廊下でぶつかり秘密を垣間見たのに、なぜかだまっている・・・
一体どちらの目線で語ってる?と謎だらけの上に、何度も同じようなシーンを行ったり来たり。とりあえず、拷問・投獄のあたりまでの経緯なのだが、真実のシーンを小出しして徐々に核心に迫っていくという手法だ。密告者は誰?まさかみんな処刑されたの?と疑問符は続く。
ドイツ映画でも反ナチ映画が作られるようになっているし、韓国映画でも軍事独裁時代を描いた作品が増えているように、この台湾映画でも暗黒時代を鋭くえぐっていると思われる。ホラー部分そのものは怖くないのに、拷問されるシーンのほうが怖いのです。そして、最後には全体の構図がわかり、チャン先生の思いも切なく伝わってくる。忘れないよ!こんな珍しい映画があったことを・・・
題材、テーマは分かったけど、自分にはストーリーが繋がらない
タイトル「校返」は、
学校に帰る、ということのようです。
でも、映画の中では、校門から外に出られない
と、言ってました。
英語タイトルはDetention(居残り)。
では、
「言葉が消えた日」の中に、閉じ込められた?
でも、校返ならば、
言葉が消えた日に、帰るということなのか?
誰が、帰ろうとしているのか?
それとも、帰ったのか?
言葉が消える
とは、言論統制を指しているけど
主人公の女子高生が閉ざしていく世界
(多感な思春期を襲う現実や恋)
をも言ってるような・・・。
ラストは、やっぱり学校に帰ってくる。
スリラー映画以上の、怖さを感じました。
返金 時間が消えた
わかりにくさもあったが、ビジュアルや雰囲気は良かった
原作がゲームと言われれば、そんな感じだよなあという出だしで始まる。
最初から中盤過ぎるあたりまで、女子学生ファンのほうが主人公だと思っていた。男子学生ウェイは物語のガイド役かなと。
実際は逆だったので、もうちょっとウェイのほうにウエイトを置いた展開だったらわかりやすかったかも。
わかりづらさは他にもあって、ネタバレ解説読んで、ああそうなのかとなった。
買ってないけど、パンフレットに書いてあったのかなあれ。
作品自体がそうなのか、自分が外国人で知識がなくて誤解しただけで台湾の方の多くは大丈夫なのか判別しがたいが、わかりにくくて誤解していた部分はあった。しかし、ビジュアルや雰囲気、俳優さんたちも良かった。
でも、一番ゾッとしたのは、ファンの父親が連行されたあとの母親のセリフだったな……生きてる人間が一番怖い。
重いエンタメです
新聞の紹介記事を見て、台湾人の知り合いがいるものですから、台湾の現代史を知りたくて観に行きました。実際には政治的なテーマに中心を置いた映画ではなく、エンターテインメントとして観られる作品だと思います。筋立ては日本のアニメなどにもあるパターンで、そういう意味では目新しくはありません。ただし、これを見ると、台湾に共産党狩りと言論弾圧の時代があった(日本の戦時中と同様)ことを忘れることはできなくなると思います。映画の最終盤で出てくる、「生き残った人」に該当する人々は、いまの台湾社会にも少なくないはずですよね。そうしたリアリティが、単なるエンタメとこの映画を分けていると感じました。なお、他のレビューにもありますが、ホラーとか、ミステリーといった要素はさほど重要ではありません。
この映画を観る程度の自由なら手に入ってる
これはミステリーというより、ラブストーリーだ!
この映画「返校」はホラーゲームを元に実写化され、ジャンル分けすると、ダークミステリーということになるらしい。
しかし、この映画は、ホラーやミステリーの顔をしているが、その本質は、先生と生徒のラブストーリーの様相を呈している。
ホラーとしては、過剰なほどの演出はない。
ミステリーとしては、国民党の監視を逃れ、発禁本を書写する読書会グループの動向が、時系列を行き来し、抽象的な描写で描かれていく。
そして、そこに折り重なりながら、主人公の女子生徒ファンと、教師チャンのラブストーリーが展開していくのだが、女子生徒ファンの父が国民党員であったことから、ファンとチャンの愛は皮肉な方向へと向かっていく。
ミステリーとしては、観てのお楽しみだが、ラストシーンも、あくまで抽象的に、そして、せつなく描かれていく。
ホラーとしての描写は、よくわからないが、抽象的なストーリー展開は、丁寧につくられており、最後にラブストーリーとしての顔を見せるあたりは、まるで、人間としての、すべての迷いや醜さを取り去り、最後の最後に残ったファンという女性の純粋な想いを見せられたかのような余韻を残す。
ぜひ、劇場で観てみてはいかがだろうか。
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