「犯罪者にもなれない男女のどこにも行けないロードムービー。」リバー・オブ・グラス 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
犯罪者にもなれない男女のどこにも行けないロードムービー。
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アメリカではアウトローに対する憧れと共感が強いのか、映画の世界でも昔から犯罪者の逃避行を描いた作品が多い。若き日のケリー・ライカートの初長編である本作では、その代表的な名作である『地獄の逃避行』などへの憧憬をにじませつつ、ヒーローにもアンチヒーローにもなれない庶民の倦怠感をみごとにフィルムに焼き付けている。
退屈な日常から飛び出したい欲求と、地元から出ることすらできない小心さ。憧れだけが肥大し、現実はあまりにもショボい。それでも、逃避願望のある女と男が出会ってしまったことで、2人はつかの間のボニー&クライドを気取る。
こういうダメな男女を、共感とロマンティシズムで描く映画は多いと思うのだが、ライカートは一切容赦することなく、彼らの小ささを浮き彫りにしていく。後のストイックな作品に比べると、笑いどころや映像的なお遊びも多く、ポップとさえ言える。しかし、どこにも行けないもどかしさというライカートが追求するテーマはすでにハッキリと形になっているのがわかる。
にしても、こんな風に情けない女と男を主人公にした映画があっただろうか。実生活ではお近づきになりたくないが、一歩間違えば自分だったかもしれない落とし穴にハマってくれる登場人物たちにありがとうとすら言いたくなる。洗練とは別種の魅力に満ちて、大好きな作品です。
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