「「ヒロアカ」の枠組みを超え「作品」として秀逸なストーリー」僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション トモチャフスキーさんの映画レビュー(感想・評価)
「ヒロアカ」の枠組みを超え「作品」として秀逸なストーリー
好き嫌いが分かれそうなストーリーに敢えて踏み切ったことにまずは拍手をしたい。私の推している飯田が殆ど出演していないのは残念に思ったが、デク・ロディの人間関係を重厚に描くための犠牲だと思えば仕方がないと妥協できる。
ヒロアカの多くのエピソードは、ピンチ時にヒーローの底力を出し、必殺技を放って終わることが多い。しかし今回は良い意味でも悪い意味でも「等身大のヒーロー」が描かれていたと思う。というのも、最終的に本編で発端になっていることを直接解決したのは、「ロディ」という普通の青年だったからだ。つまり私たち普通の人間であっても、一生懸命戦えば世界を変える力を持てるということを示しているだろう。(だから皆さん、選挙には行きましょう)
映画本編では、冒頭に「個性持ち」を淘汰するべく活動している組織を摘発しようとするシーンから始まる。彼らは「無個性」の人々のみを集めて新しい世界を創ろうとしているのだ。
普段のアニメでのヴィランの行動を見ても分かるが、彼らは個性によって苦労してきた存在である。その層がより過激になったら、世界を崩壊する存在にもなり得るのである。
基本的にヒロアカは人間が瀕死もしくは死に至ることはあっても、世界全体を終わらせる危機は今までに無い。しかし、今回の映画における状況に関しては、逼迫したものになっている。また日本を超えて国際スケールになったことで、かなりダイナミックな作品になった。日本と他国の比較(建物や人間)もできるので、視覚的にも見ていて楽しい。(オセオンの建物的にドイツ・イタリア辺りがモデルかと思った)
決定的に本映画はアニメ本編と違って、始まり方が禍々しいことが特徴だ。特に冒頭シーンは幼い子どもが泣いてしまうくらいのインパクトはある。(私自身も一瞬、他の映画の予告かと思った)しかし絶望的に不気味に始まったことが、普段のヒロアカには殆どなく珍しい。
またロディとデクとの間の二項対立構造も素晴らしかったように思う。特に洞窟で焚き火をして互いの夢を語るシーンでは、彼らの環境にどれだけ相違があるか比較できる。デクもなかなか苦労してきたキャラクターではあるが、世の中を見渡すと明日生きることに必死な人間も居ることが分かる。才能・勉強、そんなことに悩んでいる私たちもきっと平和な方なのだろう。
また尺の長さ(101分程度)が丁度良いこともポイントが高い。コスパが良すぎるからだ。メッセージ性・話の展開も上手く行っており、短いとも長いとも思わせなかった。
また展開的に死者が出ていない作品ではあるが、このように涙したことはなかなか無い。
基本的に映画において、適度な話の長さで深みを出すことは難しい。時間が長ければ深みもでるし、短ければ適当に終わってしまう。しかし今回は丁度良い長さであるにもかかわらず、話の深みを大きく表現できていたので秀逸である。
話の消化不良を述べている人もいるが、あの話は詳しく後日談を述べるべきではないと思う。例えばデクの指名手配が撤回されたことを事細かに語ってしまえば、完璧に平和感が出てしまう。世の中、世界的な視野でみてみれば、完全なる平和などは無い。そのため希望の持てる明らかなラストを出すことはナンセンスなのだ。
エンドロールも良い。あのしんみりしたシーンの後に1Aのワイワイした声を聞くと興醒めしてしまう。余韻を残すという点ではかなり成功した演出であるように思う。後日談をスライドショーにした方式はなかなか魅力的だった。
私が述べた感想をまとめると本映画では、「綺麗事」のみが描かれていない点・101分であれだけのスケールを表現できた点・蛇足シーンが全く存在していない点・人物像の落とし込みが上手かった点が非常に評価できると考える。
正直、周囲の声・レビューの評価がこんなに低いことに私は驚いた。この作品を見る際には表面上のものより、裏にあるメッセージ性・クオリティの高さに注目して見てもらいたいものだ。