配信開始日 2021年3月5日

  • 予告編を見る

「単なるおバカコメディの続編なんかじゃありません 凄まじい社会的メッセージを放っている傑作なのです アカデミー賞にノミネートされてもおかしくない作品です」星の王子ニューヨークへ行く2 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0単なるおバカコメディの続編なんかじゃありません 凄まじい社会的メッセージを放っている傑作なのです アカデミー賞にノミネートされてもおかしくない作品です

2021年7月2日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

本作は1988年の第1作の33年目の超ロングパスでの続編です

単独で観ても半分も面白くないと思います
必ず第1作を観てから、その直後に本作を続けてご覧になって下さい
それが一番面白く楽しんで観る方法です

そのように本作は、実は前編、後編の2部構成の後編であると言えます
それくらい33年の年月を超えて密接につながっています

実は本作は2020年8月に公開されるはずだったのが、このコロナ禍で12月に延期され、結局公開中止となりお蔵入りになってしまった作品でした

ところが!なんとAmazon Prime Videoが独占配信を今年2021年3月からしてくれたんです!
それもprime会員なら無料で!

吹替版も、字幕版もありますからお好きな方で、ステイホームで今すぐ観れるんです!

これほどの名作をお蔵入りさせてはならない!
関係者が奔走した熱意がつたわるような気がします

物語は前作から30年後、アキーム王子とリサ妃の結婚30年記念日から始まります
主要な登場人物は殆どそのままのキャストで30年後の本作に結集しています

ただ本作の物語でも鍵となるオーレオン王妃は、劇中で既に亡くなっているので登場しません
キャストのマッジ・シンクレアも1995年に他界されています

あとギョロ目のバーガーショップ強盗のサミュエル・L・ジャクソンが何故だか出演していません
代わりにモーガン・フリーマンが本人役で登場します

お話は前作の30年後に、次の世代が同じことを繰り返すようなもので、大笑いとちょいとホロリの吉本新喜劇みたいなもので、全然大したことはありません

しかし、それでも凄いんです
33年の世代を超えた超ロングパス!

セミがこんな台詞を言います

「アメリカは変わった
黒人大統領が国をひとつに」

NY の下町も下町、クイーンズ
大阪の新世界みたいなノリの住民
前作でクソほど笑わせてくれた三バカの散髪屋の連中が次のように応えます

「だが、ムダだった
皆死ぬ、何らかの方法でな」

「現代のナチに殺される」

痛烈な皮肉です
つまり何にも変わっちゃいねえよ
上っ面だけ綺麗になっただけで、人種統合の夢なんか死んでしまった
耳障りのいい言葉を駆使して
現代のナチが横行しているんだと

ラベルは、ダフ屋の底辺生活から抜け出そうと一念発起して就職面接に臨みます
白人の一族経営のIT企業のようです
ついて来た叔父のリームから「白人に媚び売るなよ」の声を背に、白人のバカ若社長の面接を受けます
しかし、結局こう言い放って面接室を飛び出します
「最初からオレを見下しやがって!
やる気をそがれたよ!」と

今の境遇から這い上がろう、努力しようとしても黒人の若者には生まれや育ちだけでスタートラインにすらつけないのです
能力や人柄を、人間をみてはくれないのです
これでは貧困の連鎖は世代を超えていつまでも続いていってしまうのです
これじゃあダメだろ!
これこそ本作のテーマです

こんな調子のことが山盛り散りばめられています

2018年の「ブラックパンサー」というマーベルのヒーローもの映画があります
ちょっと設定が似てます
そいつにバットマンを合体させたような映画です

題名のブラックパンサーとは、マーベルコミックの原作そのままです
しかしその名前は60年代後半から70年代にかけて急進的な黒人民族主義運動・黒人解放闘争を展開して暴力的な人種対立を煽っていた「ブラックパンサー党」と同じです

そしてその映画公開の頃はBLM 運動が燃え上がった頃でした

そして本作
最初目指していた公開日は2020年8月
アメリカ大統領選挙は同年11月

黒人のおかれている状況を、1988年の前作から説き起こし、2020年現在との比較の中で、何も変わってない、上っ面だけ取り繕ってあるだけだとお笑いの中で見せてくれます

ブラックパンサーみたいに暴力をちらつかせてはダメだと

ユーモアでいこうぜ!
そして歌やダンスの力で黒人のパワーを見せつけようぜ!

歌やダンスなら黒人の力にかなうものなんていやしないだろ?
この30年でブラックミュージックやダンスがアメリカどころか世界中を愛と平和で制覇したんだ
みろよ!このパフォーマンス!

だから大御所ソウル歌手グラディス・ナイトが本人役で登場して代表曲の「夜汽車よジョージアへ」を替え歌でうたったり、若手のR&Bのスターも目白押しで出演しているのです
それは60年代、70年代から綿々と続くブラックミュージックの伝統の上に築かれたものであるという主張です

現代の大スターのジョン・レジェンドもエンドロールで劇中歌をキーボードの弾き語りでファルセットで歌ってくれます

フィナーレのパフォーマンスシーンの司会はモーガン・フリーマン、ステージでパフォームするのはランディ・ワトソンと彼のバンド「セクシーチョコレート」
もちろんランディ・ワトソンはエディ・マーフィ
そしてバンドメンバーをよく見ると!
ギタリストのドレットヘアはあのナイル・ロジャース!!!伝説のスーパーファンクギタリスト
しかも演奏するのは彼がプロデュースしてシックの演奏で大ヒットしたシスタースレッジの「We Are Family」なんです!
超いい笑顔でご機嫌で弾いてます

素晴らしいメッセージです!
分断されたアメリカなんて有り得ないだろ!
クイーンズみたいに人種ごっちゃ混ぜでいこうぜ
みんなファミリーさ
ユーモアでいこうぜ!
歌って踊って楽しい国がアメリカだ!

単なるおバカコメディの続編なんかじゃありません
凄まじい社会的メッセージを放っている傑作なのです
アカデミー賞にノミネートされてもおかしくない作品なのです

ラベルの母メアリー役のレスリー・ジョーンズに注目です
正にウーピー・ゴールドバーグの後継者といえる逸材です
ものすげーコメディエンヌが現れました!

あき240