「芸人」浅草キッド U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
芸人
あったかい話だった。
柳楽氏と大泉氏がとにかく絶品。
監督のストリーテリングと相まって珠玉の作品になっていたのではと思う。
特に柳楽氏はとんでもない偉業を成し遂げたと言わざるを得ない。日本人なら誰でも知ってる「ビートたけし」それを演じる。
記憶にあるビートたけしではない。リアルタイムでビートたけしっぷりの答え合わせが出来てしまうのだ。
…見事だった。
口調、仕草、歩き方さえ、本人そのものだった。
所作指導に松村氏を起用した監督のビジョンも卓越したものだったと思われる。
こういう話に俺は弱い。
「火花」を観た時とは違う、芸人の裏側が見えて…その生き様というか習性というか、流石なのである。
作中には金言が溢れてる。
「笑われんじゃねえぞ、笑わせんだよ」
この言葉を聞いた時の衝撃は凄まじかった。
多分、俺が中学の頃だったと思うけど。
その台詞を言ってのけた大泉氏の背骨に惚れた。
話は逸れるけど、明石家さんまさんにも鬼気迫る一言がある。あの御仁は絶対泣かないらしい。
その理由が「お客さんが気兼ねなく笑えなくなるから」なんだとか。
TVという媒体で仕事をしてきた芸人さんらしい考え方だと思う。笑える環境に「同情」とかの不純物は一切いらないのだ。
劇中、師匠の指をいじる件がある。
そんなもので一笑いできれば儲け物なのだ。
師匠が当てた万馬券を全部使うのもそうだろう。そのリアルな感情を笑いえと変換する。
24時間、貪欲なのだ。
浅草フランス座。
たけしさんのベースにはソレがずっとあるような展開になってた。
最後の1カット長回しは見事だった。
大賞の賞金をそのまま師匠に小遣いだと持っていく件とか、その後の居酒屋のやり取りとか、師弟しかも芸人の師弟って関係が素敵だった。
落ちぶれたコメディアン。
超売れっ子の漫才師。
社会的な地位は逆転するけれど、弟子はいつまで経っても弟子なのだ。
その帰り道、2人は嬉しそうに「ウケたなあ」と笑い合う。恐ろしい程にシンプルな共通項が垣間見える。
ノスタルジックな終幕ではあったけれど、きっとそのノスタルジックにならざるを得ない状況が業界にはあるのだろう。
名声を手にした時に動く金は桁が違う。
それゆえのプレッシャーも付いてまわる。
原点を振り返っても、その時のままではいけない事だって当然出てくる。
そんな想いを長回しの背中に見てたような気がする。
柳楽氏のタップダンスは絶品だった。
大泉氏の粋な台詞回しが絶品だった。
何よりこの作品を撮った劇団ひとり監督は素晴らしかった。「浅草キッド」は名曲でまた泣かされた。
そして、おそらく明石家さんまさんにも、同じくらいかそれ以上のドラマがあるのだろうけれど、全く想像出来ないし、ご存命の内にその自伝を観る事はないのだろうと思った。
観客として芸人達へのリスペクトはいらない。
ただ、彼等が色んなものを削って抱えて、僕らの前に立つ時に、面白ければ笑えばいいのだと思う。
その為に、彼等は舞台に上がるのだから。