「今は無き者たちへ」浅草キッド Captain Willardさんの映画レビュー(感想・評価)
今は無き者たちへ
この原作を一体何度読んだかわからない。
今でも浅草にはよく出かけるが、六区には既に一軒の映画館も無く、ストリップ小屋はロック座だけ、本作の主要な舞台であり、重要な意味を持つフランス座は既に東洋館という"色物"専門の演芸場となっている。
本作を観て、まず「なんて懐かしいんだろう」と思った。
実際の(かつての)六区は、現ROXの位置には巨大なテントの「蚤の市」があって、場外馬券場は開放的だったように、もっと薄汚れていて、怖かった雰囲気の場所だったが、セットで再現された演芸場とフランス座の建物だけでなく、周りの正に軒を連ねる映画館の数々や街灯は、とても懐かしく、愛おしさまで感じられた。
大泉洋は名演、柳楽優弥も大健闘していて、ナイツ土屋は助演賞モノだと思う。
他の役者さんたちも皆良く、東八郎役の尾上寛之も特筆しておくべき。
映画について、時々MV風になるのは監督のサービス精神と思うが、いくらでも泣かせ芝居にできるのに、筆致を抑えた演出は好感できたし、なによりも劇団ひとり のビートたけしへの愛情が溢れている。というより、この映画は、たけし一人に向けて作ったのではないか、とまで感じる。
筋書に一部触れるが、原作で書かれなかった、たけし が浅草を出てからの姿、亡くなるまでの師匠の姿も描いている。
一方で主題歌は、ビートきよし ではない時期の たけしの相方(映画には登場しない)を歌ったものだ。
本作は原作と歌の両方(と恐らくは過去量産された、たけし の自伝本「たけし!」や「みんなゴミだった」など)を底本として構成されていて、その結果、映画化にはフィットする内容となり、今の目にも共感を招く作品となった。
師匠や踊り子、小屋で働く人たち、浅草六区という場所、そして多分、昔の たけし自身も、全て今はもういない者たち。
この映画に通底するのは、今は無き、現代では生きにくい者たちへの稚気に富む愛情と憧憬、そして謙虚な感謝だ。
なお、原作に登場する居酒屋は(歌や映画に出てくる)店ではない、別の店だが、そちらは今も繁盛していて、私も多分、今週末に伺うつもりだ。店主は以前「たけし はこのところは、ゼーンゼン来ないわよ〜」と言っていたが(笑)、これは御愛嬌。
他作への共感ありがとうございます。本作、よかったですよね。
私もとても好きです。
レビューを始める前に観たものについては、なかなか書けないままですが、このレビューを拝見して、しばらくぶりにまた観たくなり、レビューもしたくなりました。