「生涯ベスト級の映画。」ボクたちはみんな大人になれなかった ふっきーさんの映画レビュー(感想・評価)
生涯ベスト級の映画。
小沢健二、とても好きでした。
その頃の小沢健二や小山田圭吾あたりを筆頭とする渋谷系界隈というのはサブカル系の走りみたいなところがありまして。
そんな自分には実に心当たりのある映画です。
この主人公は過去のサブカル系彼女の言葉の呪縛に囚われたまま、それを大人になれなかったという言い方で、なぜそう至ったのかをどんどん時間を遡って追体験していく映画です。
現代の主人公としては、別に特別な何かがあったわけじゃなく、コロナ禍の新宿でナナセと再会して、一緒に路上飲みして、帰りのタクシーで偶然オザケンの彗星聴いて過去の自分を振り返り、彼女と出会った場所や一緒に過ごしたホテルを訪れたりして、「ホント、フツーだわ」とようやく呪縛が解ける、というだけのお話。
ただこの作品のすごいところはその主人公の過去を描写する映像の説得力が尋常じゃないところなんですよね。時代背景や役者の素振り、セリフ回しから小道具の1つ1つまでのすべてが恐ろしくリアルで、本当にタイムスリップしてるとしか思えないほど、非常に良く出来ています。あの原作小説の生々しさを失わずに、むしろキッチリとリアリティをもって映画に仕上げた監督の力量には本当に感服します。
そして観客として過去を追体験して先述の現代のシーンに戻ることで、フツーじゃない生き方を模索し続けてビューティフルドリーマーのようにラブホテル内の止まった時間から抜け出せなくなっていた主人公が、ようやく呪縛から逃れるシーンに大きく心を揺さぶられました。
映像のリアリティによる説得力というものを、ひしひしと感じさせられました。車で出掛けて、彼女が逆光から「おいでよ!」と呼ぶシーンの美しさは見事。
僕の中で生涯ベスト級の大好きな作品です。