「伊藤沙莉に尽きる。特別な脚本ではないがそこかしこが丁寧で、後味しっかり。」ボクたちはみんな大人になれなかった BDさんの映画レビュー(感想・評価)
伊藤沙莉に尽きる。特別な脚本ではないがそこかしこが丁寧で、後味しっかり。
前半は退屈でしたね。切って貼ったような「退屈な現代」。業界のことはよく知らないけど、たかだかテロップ制作会社のいち社員が、そんなグラビアアイドル崩れと美味しい目に会います?なんて思っちゃった(笑)。まぁ森山未來だし有り得るのかな。ただイケ。
本編は伊藤沙莉の強さ。むげん堂に勤め、オザケンが好きで、自作の柄付きスカートを着て、外見にコンプレックスがあってお金がなくて、人見知りで、自分の正義には忠実な若い女の子。そんな女の子の正義に振り回されながら、完全に「アテられて」しまっている、いまいち主体性のない若い男。うん、そんな青春、そりゃ楽しかろうよ。話としては「以上!」みたいな話で、珍しい話ではないと思った。
ただ、そうは言いながら、しっかり見ていてズシンと来る映画でした。一つには伊藤沙莉が「自分の世界を持ってる彼女」の強さと可愛さと刹那性を一から十まで丁寧に演じていたからなんでしょうね。だからこその没入感、実在感。
過去に入ってからの映画の作りはほんとうに丁寧で、そこかしこの固有名詞に表出される90年代ノスタルジーばかりが注目されがちだけど、たとえば犬キャラさんからDear佐藤さんへの手紙の便箋が毎回違って、細かいデコレーションや有名人写真の切り貼りなどの、当時の女の子だな~!っていう描写の細かさ、なんかが本来的に優れたとこなのかなと。
次第に遡っていくタイムラインの中で、死んだヤクザやオカマの森山未來への想いをはじめとした小さな伏線回収もそうで、土台のしっかりした映画だなと思いました。だからこそ、コロナ禍の現代を映画に取り込んでいたのも、安っぽさは感じませんでした。現代の伊藤沙莉が全く出てこないのもいいよね。気が利いてる。
90年代ものとしては「SUNNY」(これはもうちょっとライトな映画ですよね)あと、ノスタルジーものとしては「あの頃。」あたりを思い起こさせる、インナーながら豊かな世界を振り返ると言う流れは最近のちょっとした流行りかな~。
別にいいんですけどね。当方アラフォーですが、こういうの見るたび、「そんなに過去を美化せんでも」とは毎回思いますけどね(笑)90年代も楽しかったけど、今も素敵だよ未來。