「キャスティングの妙が光る「時代劇」」孤狼の血 LEVEL2 ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
キャスティングの妙が光る「時代劇」
前作でミイラ取りがミイラになった日岡の、怪物上林との対決を描く続編オリジナルストーリー。
暴力も嘘も世間的には当然アウトなレベルなんだけど、映画になるとカッコよく見えるから困ってしまう。何だろう、ヤクザ映画のこの引力は。
面白いと公言するのが憚られるほど暴力的で、けれどその行動原理にむき身の人間の姿が見えるからか、抗い難い魅力がある。
キャスティングもいい。前作以降、続編にヤクザ役で出たいと申し出る俳優が引きも切らず、スムーズに配役が決まったそうだ。
よかった配役を挙げ出すときりがないが、やはり鈴木亮平を推さないわけにはいかない。何なんでしょうねこの人。
俳優だから当たり前と言えばそれまでなんだけど、救急救命医も田舎の駐在さんも死の床の病人も変態仮面も、体型まで変えて全部ハマり役にするそのポテンシャル。演技と無関係だが鑑賞特典のポストカードの絵まで描いていて、万能感がすごい。
彼の上林は本当に怖かった。チンタの顔を両手で包む時、親指ふわふわさせてるだけでもう恐怖だった。モデルあがりのガタイのよさが、笑った時の形のよい口元までもが、威圧感に変わっていた。ヤクザの怖さというよりサイコパスの怖さだが、眩しいほどのインパクトに取り込まれてしまった。彼の行動の背景が、ちょっと類型的なのは惜しかった。
村上虹郎はいい役をもらえたと思う。中村梅雀、本当に上手い。吉田鋼太郎は個人的に好き。こんな作品でも滲んでしまうおじさんのかわいげ。
松坂桃李の演技も十分見応えがあったが、敢えて言えば肩幅があまりないのにあの痩せ方(役作りで痩せたとのこと)が、ギラギラ感を出すのに正解かどうかよく分からなかった。前作では大上の存在感と、新人日岡の心境がドラスティックに変化していくところが見どころだったので、それらのない本作を並べてみるとちょっと荷が重かったように感じてしまった。
設定上は大上の後継は日岡だが、作品の華を作るキャラという立ち位置で見れば、上林が大上の後継なのだろう。
ラストは原作との辻褄合わせなのかも知れないが、作品単体で見ると締まらない印象で勿体なかった。
今更野暮な話かも知れないが。
前作の大上や本作の日岡の姿は、実在して欲しい刑事の姿として描かれているわけではない。大前提として、どうしようもなく悪と癒着し切った警察組織の存在があり(そしてこれもフィクションである。現実の警察がどの程度清廉潔白かは知らないが)、カウンターかつおためごかしの正義への絶望を象徴する存在としてやむを得ず出現したアンチヒーローだ。
加えて、これは暴対法施行前の話だ。現在は、大上や日岡が「必要悪」としてのリアリティを持つ時代ではない。
本作のルーツとも言える「仁義なき戦い」(原作者は「仁義〜」なしに原作執筆はあり得なかったと言っている)は、組長の獄中手記を元にしており、公開時の時代背景を踏まえてもそれなりに当時のリアルタイムな現実に通じる面があっただろう。
そんな金字塔的作品の魅力の継承を目指した本作だが、良くも悪くもポリコレ全盛のこのご時世にあっては、いっそ時代劇と見なしたほうがいいように思う。
古臭いという意味では決してなく、現代の価値観に照らして野暮なことを言ったりせず、この作品世界が持つ魅力の普遍的な部分を楽しんだほうがいいということ。それと、現実に大上や日岡のような刑事がいてほしいかというとそれもまた違う、ということだ。
余談だが、上林が乗っていた車のナンバーが「59-10」(極道)だったのでちょっと笑ってしまった。