「消化に時間がかかりそうである」誰かの花 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
消化に時間がかかりそうである
本作品の物語は常に現在で、時系列が移動することはほぼない。しかし現在は必ず過去に左右されるから、思い出やフラッシュバックのシーンがないと、登場人物の現在を理解し難い。その点では難解な作品の部類に入ると思う。
タバコを吸ったりパチンコをしたりするのが悪い訳ではないが、否定的な印象を与えることは確かだ。主人公の孝秋にタバコを吸わせパチンコをやらせるのは、それが狙いだろうか。演じたカトウシンスケは、有村架純主演の映画「前科者」で公園のホームレスらしき人を演じていた記憶が残っていたから、尚更ダメ人間みたいに感じてしまった。
しかしそれは、観客が孝秋に無為に肩入れしないための、周到な土台作りだったのかもしれない。というのも、後半で孝秋のナイーブで臆病な人柄が明らかになると、クズ男ではないことがわかり、徐々にバランスが取れてくるのだ。誰が悪いというのでもない、俺にどうしろっていうんだという、孝秋のやりきれない気持ちが切ないまでに伝わってくる。
プロットには意地悪な部分もある。ちょっとした衝撃でも落ちそうな状態の植木鉢、子供の指の怪我や失せ猫のポスター、それに姿の見えない猫の鳴き声が観客をミスリードするのだ。そのミスリードによって興味を失うことなく鑑賞し続けることになる。当方もうまくしてやられた。
いくつかの仕掛けを上手に配置する一方で、本作品は痴呆症とその家族の問題、家族ロスの問題、加害者に対する恨みと許しの問題という、骨太なテーマを投げかける。更に裏のテーマとして、格差と貧困の問題と不十分な政治サービスの問題が隠されている。シンプルで落ち着いたストーリーだが、重いテーマでお腹いっぱいになる。考えながら鑑賞する人にとっては、ずっしりと見応えがある作品だ。消化に時間がかかりそうである。