「結末が”勿体ない”!」劇場版 ソードアート・オンライン プログレッシブ 星なき夜のアリア Riiiさんの映画レビュー(感想・評価)
結末が”勿体ない”!
原作未読、アニメシリーズ&劇場版全視聴。
戦闘シーンの迫力や作画も素晴らしく、アニメ映画として申し分ない良作。
オリジナルキャラクターであるミトの存在とアスナ視点で物語を描き直したことで、
SAOという極限状態でのアスナの成長物語という全く新しい作品に仕上がっている。
一方で、結末で作品の魅力が削がれたと感じたため星3評価。
物語序盤ではアスナのゲーム初心者ぶりが強く描かれる。予告編で雨の中でアスナが決意するシーンもあったが、この初心者がどのように成長してあの”覚悟を決めた”アスナへと至るのかに強い興味を抱かせられる。
成長のきっかけとして、”親友ミトの死”を乗り越えるといった描写が率直に思い付くが、
安易にそういった展開を選ばずに”親友ミトの裏切り”という、見方によってはよりショッキングな展開を採用することで、
「ゲームであっても遊びではない」という物語のメッセージと「生きるか死ぬかの極限状態における緊張感」を視聴者に強く印象付けることに成功している。
序盤~中盤のミトとアスナの交友という一種の百合的展開から、
”親友を見捨て”苦悩するミトと、”親友に裏切られ”自暴自棄となるアスナ、そこに手を差し伸べる”ちょっぴりヘタレな”キリト君という3者を描くことで、キャラクターにより深みが生まれている。
そして何より”親友ミトの死”というカードの温存により、「もしかしたらミトは死ぬかもしれない」という不安を視聴者に抱かせ緊張感を終盤まで持続させたことは、絶妙な構成であったと感じた。
ただ、最高のカードを切ることなく、(少々不謹慎な言い方だが)最後にミトは生き残ってしまう。
ミト自身の裏切り後の苦悩、アスナとのすれ違いと和解そして贖罪的な意味での死という展開であれば、
一種ベタではあるものの、SAOという「生きるか死ぬか」の極限状態の緊張感を視聴者に強く印象付けることができ、アスナの「親友の遺志を継ぎ生き残る」という新たな覚悟を描くこともできた。
しかし、お互い和解もして生き残ったというのにキリト君ラブとも取れる理由で別々な道を行くという選択には全く納得感が得られず、本作品における魅力の一つである「生きるか死ぬかの緊張感」を大きく減退させる結果となってしまった。
プロ野球に例えれば、終盤の優勝争いで9回裏1点リードの場面、「3連投になる」という理由で絶対的守護神の投入を見送り、サヨナラ負けを喫するといったところか。
それくらい”勿体ない”と思う結末だった。
アリシゼーション編の特殊演出に味を占めたか、はたまた人気声優を起用したせっかくのオリジナルキャラだからと製作陣が忖度したかとついつい勘繰ってしまう。
とは言え、作品全体の完成度は高くシリーズファンには自信をもってオススメできる作品であることは間違いない。
ps.好きなシーンは、直立不動でバスタブザッパーン