「善悪では語れない世界がありました。」ミッドナイト・ファミリー バリカタさんの映画レビュー(感想・評価)
善悪では語れない世界がありました。
困ってしまった。ドキュメンタリー部門の2021年度、今のところBestが来てしまった。
まず、メキシコシティーの救急事情、病院事情、悪徳警察事情、交通事情などなど驚かされます。
そして、民間の違法救急車がいるから助かる命が沢山あると言う事実は、あまりに自分の日常と違い過ぎるから、ドキュメンタリーなのに何処かフィクションと思ってしまうほど。嘘だろ?っていいたくなります。
しかし、これは事実で現実。
この作品はメッセージが前面に出てきません。良くある関係者のインタビューとか、コメントだとか出てきません。うーむ、例えるなら、日本のテレビで良くある「大家族ドキュメント」に近いです。
違法救急車を生業として日銭を稼ぐオチョア家の日々を描いてるだけなのです。
しかし、オチョア家の日々を通してメキシコシティの現実がクッキリ見えて来るのです。それは、街の営みの中、人の生活の中にこの違法救急車が無くてはならないから、そこをポイントに置くからこそ見えるのでしょう。そこの見せ方、切り取り方、浮かび上がらせ方が秀逸です。
また、オチョア家の人々が人間臭く、個性豊かで、魅力的。エピソードが無くなりません(まさに大家族ドキュメントみたいに(笑))善行をしてると言う想いはなく、あくまで仕事として、生活するために行っていると言うスタンスが、妙にプロ根性を感じてしまうほど。
途中、メインの息子16歳が弟にいいます。
「勉強しないとこうなってしまうぞ」と。
多分、彼らは選択肢がなくこの稼業をやってるのでしょう。
しかし、仕事内容はプロです。だって命の現場なんですから。必死です。救わなくちゃ金にならないでしょうし、稼いでも悪徳ポリスに持っていかれちゃう。たくさん稼がなくちゃ。夜を徹して。
ですから、緊迫感半端ないです。彼らの相手は患者の命、金をもらえるか?の心配、警察との戦い。こりゃ、ヒリヒリです。
また、同業者とのカーチェイスのような1番到着競争のスリルたるや!!!
楽しんじゃいけないけど、すごい現実。
この監督さんすごいなー。このいい塩梅のバランスはどーやって作ったんだろ?
緩急おりまぜ、エンタメ感持ちつつ、社会を浮き上がらせる。
素晴らしい。素晴らしすぎる。このバランス。
複雑なバランスの取り方をしてるメキシコだからこそ作れたのかもしれません。
傑作!