劇場公開日 2021年12月3日

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「軽いタッチとシリアスな舞台」フラ・フラダンス スイゴウたんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5軽いタッチとシリアスな舞台

2021年12月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

東日本大震災から約10年。いわき市でフラダンスの踊り手になった少女たちの成長物語。

最初に、本作も含めて「ずっとおうえん。」プロジェクトを継続した、フジテレビ他関係者の努力を称えたい。

若干のファンタジー要素も含めて、物語は一見軽いタッチで描かれる。しかし、根底にあるのはかなりシリアスな舞台であり、そこに気づくかどうかで本作の評価は分かれると思う。例えば、プロのダンサーである以上、たとえ研修期間中の1年目新入社員でも、踊り手としての「査定」があり、本作はそれを正面から描く。その厳しさが物語の伏線以上のものだと気づくには、それなりの社会経験が必要だろう。主人公5人組に施設の運営会社から与えられる評価のあり方が、一般的なアイドルアニメ作品のそれとは全然違うので、それが分からない人には5人組の思いが全然通じない。不親切と言えばそれまでだけど、これは観客の理解力を信じた演出なので、見る側がそれをどこまで読みこなすか、試されているのかも。

フラダンスに限らず、舞踊の舞台を観る時は、下半身=足運びに着目するのが面白い。上半身や顔の表情は、別に意識しなくてもかなり頭に入るのです。本作はそれをよく理解していて、特に主人公たちが本当に新人の頃、練習時の描写で特に足のクローズアップを多用する。これが笑っちゃうほど下手な動きで、重心の崩れ方や着地の不正確さなど、よくここまで作画できたと思う(正直絶賛です)。作画スタッフは顔やバストアップは手慣れているけど、足指の力の入り方に着目して作画するなんて経験はたぶん今までないでしょうから、相当苦労されたと思う。その甲斐あって、一連の練習シーンはどれも素晴らしい仕上がり。日々を重ねるにつれてどんどん上手くなるのが実感できる。
一方、舞台での踊り本番はほぼモーション3Dを使用。かなり凝った撮影で、この技術の進歩はここまで来たかと思ったのは確か。ただし、ここぞという訴求力はまだ手書きには及ばない。なんというか、(踊りが失敗している部分も含めて)全体にアクセントが乏しいのです。フラは滑らかな動きが特徴だけど、要所で微妙な「タメ」が入るのが重要。そこをCGで表現するには、もう少し進歩が求められよう。

物語は概ねシンプルな青春成長モノ。震災の設定は少し控え目にしているが、それに気づくと一気に作品の味わいが豊かになる。ヒロインの登校時最寄駅が「末続駅」=いわき駅より北側にあるのだけど、そこが震災後長期間にわたって運行停止区間だったと理解できるかどうかで、作品の印象が大きく変わると思う。こんな例がいくつもあって、スパリゾートの内部は多少説明があるけど、その外側は作画されるだけ。そこが震災後どういう経緯を辿ったか、ほとんど紹介がない。私は現地を旅した経験が幾度かあるので、ある程度は理解できるのですが、そうでない方にとっては少々不親切(ここは減点)。言い換えると、この機会にぜひ福島へ足を運んでください、という作品の思いがある。
主要キャラが5人全員キャラが立っているので、物語の本線は順調に進む。個人的には「どすこい」ちゃんの大らかさがお気に入り。踊りの作画も、彼女だけ明かに雰囲気を変えていると思う。ハワイの皆さんは身体が大きい方が多いので、実は彼女はフラダンサー向きなのですが、観る側がそこに気づかないと「イロモノがいる」と思われかねないのが難しいところ。5人が途中のピンチで対立こそすれ仲間割れしないのは、それがフラダンサーの本質だから。本作はアイドルアニメではないのです。ただ、ヒロイン以外のキャラクターの物語が、ちょっと唐突に始まる感じがして、気になった(特にオハナちゃん)=減点。

声優専業以外の方が多いキャストは、いわゆる「声優グセ」がなくて、自然な発声がいいバランスを保った。その中でヒロインの姉役を演じた人気声優の演技が頭一つ抜けていて、さすが。この方が成人女性役を演じる機会は珍しいと思うのですが、見事なキャスティング。5人組が東京でフラを披露する場面の選曲がなかなかぶっ飛んでいて、アニメならではの楽しみ。コンテストとしてはどうかと思うけど、(例え新入社員であっても)お客様を楽しませるプロのエンタテイナーとしての矜持を見た気がする。繰り返しになりますが、踊りの場面で下半身の動きを疎かにしなかった作画は、大健闘でしょう。また、現地の肌触りを季節感込みで丁寧に描きこんでいるけど、そこに押し付けがましさが感じられないのが良い。

女の子が踊る作品だから当然女性アイドル系アニメ。そのノリで本作を観ると、おそらく物語が読めないし、他の作品を見た方がたぶん面白い。この点で本作は見る人を多少選ぶ。震災から10年経って、あなたはどれだけあの日々のことを覚えていますか、と問われていることに気づいてはじめて、本作の魅力を感じ取れると思った。その後の評価は、人それぞれ。私は良作だと感じました。

スイゴウたん