劇場公開日 2021年2月26日

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「文字通りゲイ達者な役者陣が楽しい」ステージ・マザー 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5文字通りゲイ達者な役者陣が楽しい

2021年3月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 世界的な少子高齢化のせいか、ここ数年は高齢者が活躍する洋画をたくさん観た気がする。「また、あなたとブッククラブで」や「チア・アップ!」はダイアン・キートンが可愛らしいおばあちゃんを好演。スウェーデン映画の「ブリット=マリーの幸せなひとりだち」やイギリス映画「イーディ、83歳 はじめての山登り」は孤独な高齢女性が若者たちと触れ合うことで人生を取り戻す話だった。邦画でも田中裕子の「おらおらでひとりいぐも」があった。邦画らしく静かな作品ながら、生と死を力強く肯定する良作だった。こうして並べてみると主役は女性ばかりである。

 さて本作品はメイベリンという化粧品会社みたいな名前のおばあちゃんが主人公である。主人公にテレビCMなどで聞き覚えのある名前をつけるのはいいアイデアだ。とても覚えやすい。もしかしたらロレアルがスポンサーとして参加しているのかもしれない。
 名前はともかく、本作品もやはり女性が主人公で、旦那はスクエアな精神性の代表みたいな扱いになっている。旧来の精神性から脱却して自由を得るのは、やはり虐げられてきた女性の方が相応しいのだろうか。
 何事も見ているよりも自分で参加するほうが楽しい。コンサートでプロ歌手の美声を聞くのもいいが、下手でもカラオケで自分で歌うほうが楽しい。プロ野球選手のファインプレーを見るのも楽しいが、自分たちで下手な野球をするのも楽しい。一度自分で参加してその楽しさを知った人には、見るだけの生活はつまらない筈だ。
 メイベリンはまさにその典型で、サンフランシスコでのショービジネスに自分で参加したら、その楽しさにハマってしまった。テキサスでの夫との味気ない生活は退屈極まりない。テキサスという土地柄も夫も、両方とも考え方が古くて自由がない。サンフランシスコの店でなら自分の音楽の才能を存分に活かせる。ステージデザイナーとして脚光を浴びることも、ステージでスポットライトを浴びることも、テキサスでは考えられないほど楽しいことだ。自分に商売上手の才があることも分かった。
 主演のジャッキー・ウィーバーはこの役にぴったりで、楽しさとつまらなさと自由と退屈をわかりやすく演じていてとてもよかった。サンフランシスコには危険や無関心もあるが、兎に角自由がある。異文化やジェンダーフリーを認めないスクエアな夫とテキサスはブルシットだ。そこには何もない。
 観ていて非常に楽しい作品だと思う。ゲイたちを演じた役者陣はみんな歌も踊りも上手くて、文字通りゲイ達者だった。

耶馬英彦