「暗闇の中で半分残像の嘘物語を愛する根暗たちへ」浜の朝日の嘘つきどもと 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
暗闇の中で半分残像の嘘物語を愛する根暗たちへ
お叱りや恥を忍んではっきり言ってしまおう。
福島県民でありながら、この“朝日座”の事を知らなかった。
無理もない。
朝日座があるのは南相馬市。私が住んでいるのは郡山市。同じ県内でも結構離れている。(福島は広い!)
朝日座が建てられたのは1923年で、閉館したのは1991年。私が生まれたのは1982年。
こういう作品が無ければ、なかなかご縁が…。
だからまず、作ってくれた“ご縁”に感謝を!
100年近い歴史を持つ朝日座。開館時は、“旭座”。
1991年に一度は閉館するも、2008年に“朝日座を楽しむ会”が発足。
2011年の東日本大震災をも乗り越え、再び地域の人々の集う場に。
そんな実在の昔ながらの映画館を舞台に上映する、話自体は創作の“嘘物語”…。
シネコンの波。
さらに、東日本大震災とコロナのWパンチ。
借金もあり、朝日座の支配人・森田は閉館と売却を決意する。跡地には健康ランドが建設予定。
断腸の思いで古いフィルムを焼いていると、若い女性が現れて、突然水をぶっかける。
何でも遠い親戚に当たり、映画館を立て直す使命を帯びたという。
名は、“茂木莉子”。
そんな映画みたいな唐突な出来事がある訳…。
そう、嘘。
“動機”以外は。
本名は、“浜野あさひ”。
両親、弟と南相馬で暮らしていた。
あの震災が起き、家族が崩壊した。
父は除染作業送迎の“浜野朝日交通”を立ち上げ、成功。
一方、神経質の母は放射能で身体の弱い弟ばかりを心配。
あさひはその板挟み。父の成金と自分の名と同じ会社も嫌い。学校では友達も出来ず、居場所も無く…。
そんな時救ってくれたのが、田中先生。
先生と交わした約束。それが、
南相馬にある朝日座っていう、古いけど、とってもいい映画館を、立て直して欲しい…。
現在パートの“莉子”と過去パートの“あさひ”のエピソードが交錯して展開。
まず、“莉子”。
とにかく莉子が、ズケズケ物を言う物怖じしない性格。
森田はメタボな頑固親父。
「ジジィ!」vs「小娘!」と二人の丁々発止のやり取りも愉快。
閉館の危機にある映画館を救う奮闘劇。
クラウドファンディングやTV出演で借金返済のお金を募る。
好調!…が、ぴたりと客足は止まる。
買取側の画策。借金額は450万だが、取り壊しがすでにもう決まっているという事は、その人件費なども含めさらに1000万プラス。
何て悪徳なやり口!…いや、一概にそうでもない。
健康ランドなら老若男女、地域の人の為の憩いの場となれる。
客離れが激しい映画館にそれが出来るか…?
私はこれを聞いた時、厳しい現実を突き付けられたような気がした。
夢で飯を食っていけるか…?
でも、飯を食う為に人は夢を見るもの。
この現在パートはコミカルでありつつ、シビアな現実からも目を背けない。
果たして、総額1450万を取り壊しの日までに集める事は出来るのか…?
“あさひ”パート。
映画好きの田中先生。
あさひも視聴覚室で一緒にこっそりDVDを見たのがきっかけ。
親御さんたちには不人気だけど、生徒たちには人気の先生。あさひも大好きな先生に。
その後あさひは東京へ引っ越すも、そこの学校を中退し、戻ってきて先生の家に居候を始める。
一緒に住み始めて分かった、実は男にだらしない先生。すぐ惚れて、すぐフラれ…。
でもあさひにとっては、欠けがえのない毎日。
映画もたくさん見て。
教師の前は映画の配給会社で働いていたという先生。
何だか、夢や人生のこれからなど抱いていなかったあさひの目指すものが…。
歳の差、生徒と先生の立場を越えた親友に。
…別れは突然に。
それから、8年。
あさひはかつての先生のように映画の配給会社で働いていたが、今の先生のカレシから呼ばれ、再会する。
思わぬ姿の先生と…。
高畑充希の巧さ!
元々演技力には定評あるが、強気な現在“莉子”と根暗な過去“あさひ”のメリハリ、抑圧、性格付けが見事!
落語家の柳家喬太郎もユーモアと哀愁たっぷり。
年齢、本当ですか…? 体型は本当ですよ。二本立ての組み合わせはちょっと…(^^;
個性派キャストが揃った中、個人的にVIPを挙げたいのは、お笑い界からの大久保佳代子。
大久保さんが演じた田中先生。
素のようなナチュラル演技。
男にだらしない設定は、絶対大久保さんからのイメージでしょう。
優しくて、一緒にいて楽しい。
笑わせる。
教師/大人としての責任能力もある。
泣かせもする。
あさひを映画好きにしてくれた人。
あさひの人生に影響を与えてくれた人。
ベタな言い方だが、自分も学生の頃、こんな先生と出会えてたら…。
二人で暮らした日々はあさひにとっては欠けがえのない毎日だったが、それは先生にとっても。
別れの日の振り返った先生の笑顔がそれを物語っている。
それから、先生の今カレがチョー可愛いの。
ピュアな外国人青年。何だか頼り無さげだけど、彼が最後、まさかまさか!
福島ロケも良かった。
南相馬にはほとんど行った事無いが、明らかに郡山の風景が!
あの屋上から見覚えや馴染みある街並み…。
日本の女性監督も十人十色。西川美和は重厚な作品、河瀬直美監督は知的な作品…そんな中本作のタナダユキ監督は、ユニーク。
私が好きな『百万円と苦虫女』はタイトル通り苦いユーモアある作品の一方、『ふがいない僕は空を見た』は激しい濡れ場を交えた重厚な作品。
本作は一見、『百万円~』寄り。
コミカルな作風。
アニメーションで説明される映写機。これ、仕組みを知ってる人は改めて、知らない人も非常に分かり易く、面白い。また、その時の先生の台詞が本作強いては、映画そのものや映画好きの我々を表している。
映画が題材なので、実在の映画も掛かる。通なら殊更堪らない。
その一方…
ちいさな昔ながらの映画館の厳しい存続危機。
その原因の一つは…。現在のコロナ禍も絡める。
そして、忘れちゃいけない。今の福島が舞台になる限り、描かなくてはならない、3・11=東日本大震災。
直接的な描写はないが、台詞の端々に滲み出てくる。
朝日座の傾き、あさひの家族の崩壊…。
何よりもショッキングだったのは、森田の米農家の弟の震災後一年後の自殺…。
あの震災が福島にどんな影響を及ぼしたか、今もどんな影響を及ぼし続けているか。
物語への溶け込ませ方は直球の『Fukushima 50』よりずっと巧い。
閉館危機の映画館へのエールや映画愛も『キネマの神様』より胸に響いた。
これらをオリジナル脚本でまとめ、また一つ、手腕と才能と魅力的な作品を。
そう、だから映画を!
我々が観ているのは幻想かもしれない。
嘘物語かもしれない。
それに感動し、虜になる我々はひょっとしたら、根暗なのかもしれない。
でも、根暗連中は星の数ほどいる。
それでいいじゃないか。
シビアなテーマも込めつつ、作品はハートフル・ムービー。
だから勿論、最後はハッピーエンド。
ご都合主義、出来すぎなんて声もあるかもしれない。
それでいいじゃないか。
映画みたいなハッピーエンド。
そんな思いに触れて。そんな思いに溢れて。
そんな素敵な気持ちで映画館を出て、元気が貰えた。
実は当初はそれほど観る予定は無かった。
夏映画が終わり、秋映画まで開き、たまたま休み、福島が舞台だからちょっと観てみるかな…そんな程度。
予想を遥かに上回った良作!
見ておいて良かった!
年間BEST級入りになるかも…!?
福島が舞台の映画だから贔屓してるんじゃない。
だって私も、
暗闇の中で半分残像の嘘物語を愛する根暗なのだから。