劇場公開日 2020年12月18日

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「(ある意味で)見る前に予備知識が必要かな…。」日本独立 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0(ある意味で)見る前に予備知識が必要かな…。

2020年12月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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★内容的にレビューが荒れやすい映画です。
どうしても映画の性質上、個人の思想が入り込むことは否定できませんが、それをここでどうこうするつもりはないことは「強く」断っておきます。
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 今年61本目(12月20日)。25日の週も良い映画が多いですし今年は最後の最後まで楽しめそうですね(コロナには気を付ける必要がありますが)。
なお、私は理系卒で教員免許を持っているため、日本国憲法の単位を履修済みです。

 さて、こちら。
多くの方が書かれている通り、現在の日本国憲法の成り立ちを描く内容です。多少は誇張が入っているのだとは思いますが、9割以上は史実通りになっているのでしょう。

 戦後の日本でGHQの指示のもと、日本国憲法ができていきますが、GHQがこだわったのは、今の憲法でいえば1章(天皇/1条~8条)、2章(戦争放棄/9条)が大半であったことはよく知られています。これは特にGHQが強硬的だったため、最終的には日本側が折れた形で大半飲んだわけですが、中には基本的人権(10~40条)や憲法改正(86条)についてもGHQは多少なりとも介入しています。

特に後者(憲法改正条項)については結局今の形になったわけですが(衆議院参議院の2/3の賛成+国民投票の過半数の同意)、日本国憲法は質素な成り立ちになっており、だからこそ(憲法と比したとき)序列として下位になる法律制定などで補っている部分や、解釈で補っている部分(例えば、時々問題となる私学助成は89条に形式的に違反するように見えるが、「公の支配」を広くとり、公費濫用防止説に立つことで事実上広くとるというもの、などが最たる代表例)があり、だからこそこれまで(2020年まで)改正もなされておらず、その点は「あえて複雑怪奇にして何度も改正を要するような憲法にするより、質素な憲法にして解釈次第で柔軟に解釈していけばよいのでは」という考え方も成り立ちうるところです。

 ※ 当時の日本や、そもそもGHQもそれを想定していたのかは確固たる証拠がなく不明。GHQは急がせていたし日本はGHQの言うことを聞かざるを得なかったので、「結果として」簡素な憲法になった、という考え方も成り立ちえます。そもそも、戦後の混乱期で焼け野原だというのに民法典なみの憲法を作る話になったら、それこそ何十年かかっても終わらないのはどうみても明らか。

 内容的に非常にセンシティブな映画で、一歩間違えると炎上しかねない内容ではありますが(どのような立場によったとしても)、できるだけ炎上しないように史実を描写しきることで炎上しにくくし、かつ今の日本国憲法の成り立ち(厳密には、明治憲法の改正にあたる)についてまとめた点は良かったかな…と思います。

 ただ惜しむべきは公開時期で、内容が内容だけに、憲法記念日などに合わせればよりよかったのかもしれませんが、そもそも今年はコロナ問題がありますし、来年に回すにしても内容がセンシティブで、あえて憲法記念日にあてると、これまた別の意味で「なんでその日を選んだの?」ということになりかねず、そこはまぁもう本当に難しいですね…(12月のこの末にひっそりと公開された、という点がどうしても否めない)。

 減点対象は下記0.2のみですが、大きな傷ではないので5.0にしてあります。

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 減点0.2 作内で何度か「行政(権)」という語が出ますが、「行政」という語は実は明確な定義が存在しにくい語句です(中学校の公民でもぼかして書いてあったりする)。実際、日本国憲法では「行政権は,内閣に属する」(65条)とするような程度であり、「行政とは何ぞや」ということについては明確に書いていなかったりします。

 現在では行政(権)とは、「国家作用から司法と立法権を除いたすべてのもの」という引き算定義方式(控除説)でとらえられることが多く、ある意味「定義をあきらめた」状態に近いのです(逆に、積極的に行政とは何か、を定義しようとした学者も(戦後)いましたが(積極説/田中二郎説。行政法の有名な学者)、今ではこの「控除説」が一般的理解です)。

 となると、日本国憲法の制定にあたってもこのように出てくる「行政」とは何ぞやという定義が制定当時、GHQや国内で議論されていたか否かという点は当然気になるところで、そのあたりの説明がまったくなかったのがちょっと残念に思いました。
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yukispica