「さすが話題作」ドライブ・マイ・カー odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
さすが話題作
賞を総なめした話題作がアマゾンのサブスクに早くも登場とはラッキー。
カンヌを始め国際的にも高評価の作品であることは承知していたが3時間近い長編となると多少身構える、まして妻に裏切られ、一人残された夫の嘆き節だから尚更です。ただ、観てみると主人公の底知れぬ穏やかな人格に引っ張られ飽きずに鑑賞。
文芸作品だと思っていたら冒頭から濡れ場の連続、あれれB級かと当惑、しかも40分を過ぎてクレジット、アバンタイトルにしては異色の長さ、3時間になる訳ですね。
中盤以降は演出家と俳優の立場で夫と間男が関わる妙な緊張関係、母を土砂崩れから救えなかったことをトラウマに抱えるドライバーのみさきと通じるところのある主人公、同病相哀れむの構図ですね。
些末なことですがいくらタイトルがドライブでも広島から北海道は遠過ぎませんかね、思いやりの深い主人公なら忘れたいであろう、みさきの過去にあえて塩を塗るような故郷行きもちょっと解せません。いくら北欧のサーブとはいえノーマルタイヤで雪道は無謀、事故が起きるのではないか、もしや不幸なエンディングかとハラハラでした。
妻の不貞を、あの時、正しく怒るべきだった、憤りを逃げずにぶつけていれば事態は変わっていたかもという最後のセリフ、凡人なら躊躇なくそうしたことを悩む主人公、不倫は幼子を失った妻の喪失感からの現実逃避だったのだろうと、理性と愛情に満ちた主人公の人柄が西島さんの好演と相俟って胸を打ちます。
主人公は舞台俳優兼演出家、劇中劇がチェーホフのワーニャ伯父さん、本作も冒頭にインパクトをもってくるあたりはチェーホフの提唱した遁辞法へのリスペクトでしょうか、テーマがインテリゲンチャの挫折というのも通じるところを感じます。ただ、マルチリンガルでの舞台演劇とは奇抜ですね、カンヌを意識したのかな。本読みで感情移入を制する演出もあれれでしたが、むしろ最初の本読みで安易にキャラクターを作ってしまうとあとあと縛られて演技が硬直化するのでプロはあえて平読みが慣習と知って納得です。