「伝統は生きています 確かに継承されていると感じました このような映画が今後も途切れることなく、撮られていくことを切に望みます」ドライブ・マイ・カー あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
伝統は生きています 確かに継承されていると感じました このような映画が今後も途切れることなく、撮られていくことを切に望みます
素晴らしい傑作です
アカデミー国際映画賞を始め数々の国際的な映画賞を総ナメにするのは当然と思います
3時間は少しも長いとは感じませんでした
劇中劇のチェーホフの「ワーニャ伯父さん」の台詞が本編と妙なシンクロを始め出します
アジア各国からオーディションで選ばれた俳優達がそれぞれの役を別々の自国語で演じながら、「ワーニャ伯父さん」を上演することの意味
果ては手話だけの女優まで登場させるその意味
俳優達は数か国語がとびかう舞台の上で、台詞ではなく、相手役の感情や動作だけをみて反応してゆかねばならないのです
つまり言葉には意味がないと言うことを表現しているのだと思います
夜の車中での家福と高槻の長い会話の圧巻さ!
そのとき家福の知らない物語の続きを語るシーンは長く記憶に残るものでした
なんという表情と声の演技!
それを撮るカメラのレンズ!照明の凄さ!色彩!
妙に寒々しい色温度での撮影は、家福の心象風景を表現すると同時に、このシーンの破壊力を増す為でもあったのです
そして終盤の北海道の寒村のシーン
心の奥底に押し込めて見ない、知らないことにしていたことの恐ろしさにようやくたどり着いたのです
「真実はそれがどんなものでもそれほど恐ろしくない。いちばん恐ろしいのは、それを知らないでいること」
そこに考え至る過程の二人の苦しい灰色の年月のあまりの長さを、広島から、北海道への長距離ドライブのシーンで表現してみせるスマートさ!
冷たい無彩色の雪原の中で、二人はついに真実を知るのです
ラストシーン
家福の車をみさきが独りで運転して韓国のスーパーに買い物に出ています
犬も連れています
その表情はそれまでの固い無表情なものでなく、柔和なものになっています
外は温かい陽光が降り注いで、道はどこまでもまっすぐなのです
他の車すらいないのです
二人に何が起こったかの暗示です
後味も素晴らしい終わり方でした
日本映画らしくない、日本映画界の異端の映画だといわれているそうです
昨今の日本映画の現状からすればそうなのかも知れません
でも自分には1950年代、1960年代の日本映画の黄金期
アカデミー外国映画賞を受賞したり、ノミネート作品が幾つもでた頃の日本映画の味わいがあると思うのです
伝統は生きています
確かに継承されていると感じました
このような映画が今後も途切れることなく、撮られていくことを切に望みます