劇場公開日 2021年8月20日

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「妻の秘密? 妻を責めない夫の秘密?」ドライブ・マイ・カー kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0妻の秘密? 妻を責めない夫の秘密?

2022年4月12日
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鑑賞方法:映画館

3時間の会話劇…それをちゃんと観させるんだから、凄い。
正直、主演が西島秀俊でなかったらもたなかったと思う。彼の演じない演技が暑苦しくないから3時間いけたのだ。
作中で西島秀俊演じる家福が指示する、感情を殺して台詞を棒読みさせる演出術は、この映画全編を通しての濱口監督の演出手法そのものだったのかもしれない。
小津安二郎にも通じるものか。

村上春樹の短編を3本ミックスして脚色されているらしいが、そのうち2本「ドライブ・マイ・カー」と「シェエラザード」は以前読んでいて、微かに覚えている。
主軸となっているのは「ドライブ・マイ・カー」なのだろうが、これが大幅に改変されている。
舞台演出家兼俳優の家福(西島秀俊)と、その妻の間男だった俳優高槻(岡田将生)の関係性がミステリアスで、大抵の男は高槻を好きにはなれないだろうし、家福のように接することはできないと思うだろう。
この家福と高槻の関係、ひいては家福の亡くなった妻音(霧島れいか)との関係が小説とは少し違うし、専属運転手ミサキ(三浦透子)の過去については衝撃的なほど改編されていて、テーマ自体も小説とは違ってきていると感じた。
「妻はある秘密を残したまま突然この世を去った…」という宣伝コメントをよく耳にしたが、妻の秘密はあの日「話しがある」と言った彼女と話せなかったがために家福にとって謎のままなだけで、妻の死を克服しきれないでいる家福がその秘密を追究していた訳ではないと思う。
音と高槻の情事を目撃してしまうのだから(小説では直接目撃しなかったような…)、妻の浮気は秘密ではない。他にも男がいただろうと家福は疑っていて、それでも夫婦の営みには満足を得ている。家福はなぜ妻に浮気のことを追究しなかったのか、彼自身も妻に対して秘密を持っていた。
この映画の脚色の上手いところは、ミサキの過去を変え、それを確かめに行く二人旅のエピソードを加えたことと、チェーホフの織り込み方だと思う。
「ワーニャ叔父さん」の終幕に「しょうがないのだ、死ぬその日まで生き続けなければ」的な台詞があったと記憶するが、正にそういう結論を家福はミサキのお陰で導き出せたのだろうと思う。

西島秀俊は『〜ストロベリーナイト』で、慕い続けていた上司の竹内結子をヤクザの大沢たかおに寝盗られてしまう。二人が車中で関係を結ぶのを離れた場所から見つめる場面があった。
本作と同じではないが、西島の色気というのは、こういう場面でこそ滲み出るのではないだろうか。
『クリーピー〜』では、今度は妻役の竹内結子が隣家の奇人に精神を操られて行方不明となる。
『散り椿』では、幼い頃から想いを寄せていた麻生久美子が剣のライバル岡田准一に嫁ぎ、その夫婦は藩を追われていた。
『人魚の眠る家』では、妻篠原涼子が幼い娘が植物人間状態となったことで常軌を逸していき、コントロールできなくなる。
『〜奥様は、取り扱い注意』では、妻の綾瀬はるかが…あ、これはいいか。
とにかく、想う相手とは結ばれず、結ばれた妻とは確執が生じる。が、どの場合も西島に直接的な原因はない…という役が似合う。

本作で岡田将生の評価が上がっている。
爽やかなイケメンなのに、イヤな役やダメな役もこなして、本作だけでなく最近の岡田将生はいいバイプレーヤーになったと感じさせる。

特筆しておきたいのは、霧島れいかの色っぽさだ。
これが、イチバン。

kazz
はなもさんのコメント
2022年4月13日

こんにちは。
 この監督の女性の選び方はグーですね。
私は、この映画ではあんまり注目しなかったのですが 岡田氏のNHKで落語家をやった時、すごいーと思いました、その後も芸幅が多彩でいい役者だなぁと思ってます。

はなも
きりんさんのコメント
2022年4月13日

こんばんは、はじめまして
共感ありがとうございました。

なるほど、西島秀俊の、あの独特のパーソナリティの用いられ方についてのご分析。興味深く読ませていただきました。

淡白でありミステリアス。ドロドロとした対人関係からは距離を置く風貌とキャラクターゆえ、世の婦女子ファンたちに「よもや私もお相手の可能性が!?♡」と期待させてしまう何かがあるのでしょう(笑)
とらえどころの無い役柄で特定の誰かのものにならないという西島像。これ長く重用されるかもしれませんね。

突然コメント失礼しました
きりん

きりん
NOBUさんのコメント
2022年4月12日

今晩は
 今作は、レッド・カーペットに出た際の岡田将生さんの”外見“の評価が高まってますね。けれど、劇中の彼の演技は私は畢生のモノだと思っています。
 私はスマホでは、映画の事しか検索しないので、AIが勝手に色々教えてくれます。
 私は今作、公開直後に鑑賞し、余りの完成度の高さに驚き、受賞も嬉しきことなれど、もう一度見た際に”え、こんな感じだった・・”と思うのが嫌で、今作は一度見て終わりにしようと思っています。(繊細な作品ですし、個人的に最良の体調で観れたので・・)
 「グリーン・ブック」や「ラ・ラ・ランド」(キ・キ・キリン、ボ・ボク・ハ・・byみうらじゅん)は再鑑賞しましたが、今作だけは初見の驚き、深い感動を大切にしたくって・・。
 では、又。

NOBU
クリストフさんのコメント
2022年4月12日

霧島れいか、
良かったですねー♥️
もっと取り上げて欲しいですねー

クリストフ