「人間が生きる、という普遍的なテーマを上手く捌いた作品」ドライブ・マイ・カー m tさんの映画レビュー(感想・評価)
人間が生きる、という普遍的なテーマを上手く捌いた作品
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良い作品だった。
昔は大の映画好きだったけど、今は起伏がない娯楽映画を飛ばしながら見る様になっていたから、映画で感動することができる自分がまだいることを発見できて嬉しかった。
自分のこれまでの感情とつながる部分もあって、ハッとした。
妻は夫への愛情だけでは満たされず色々な男と夜をともにする。不倫相手との行為中は気持ちが乗った顔をしているが、夫との最中は死人のようだ。その気持ちもわかる。
主人公の家福は妻のそういった行為を黙認するが、自分をもっと深くまで見たほうがいいと不倫相手にアドバイスされ、終盤になってその心の傷に気づき、もっと怒ればよかったと泣き叫ぶ。その気持もわかる。
さらに夫婦の絆である行為後に妻が夫に物語を語るということが、実は不倫相手とも交わされ、さらにそちらのほうが先の物語まで語っているというところも非常に残酷だが、心情的には分かるものがある。
妻は夫に全てを話そうと思っていたのだろう。良い人だ。
きっとそれを聞いていたら、うちにある怒りや弱さに主人公は気づいていたかもしれない。
そして、最後は女の子が演劇の道を走っていることが描写され終わっている。
主人公が乗っていた役者という車と実際の車、両者に女の子が乗っているというシーンはバトンタッチを行えたということを隠喩し、タイトル『ドライブ・マイ・カー』に繋がる。
前方に広がる道に可能性を感じ、なんだかとてもワクワクした。
いつかは全てを演じ終え、最後にはその物語を誰かに託し、新たに紡いでいってもらう。
そんな、人間が生きる、という行為を上手く表現した作品だった。
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