「引き込まれて魅せる3時間」ドライブ・マイ・カー Hrshさんの映画レビュー(感想・評価)
引き込まれて魅せる3時間
物語は淡々と過ぎて、派手な事件もショーアップされたシーンも無く展開するのですが、それでもグイグイと映画世界に引き込まれる3時間で、最後まで目を離せず、胸に迫る様な台詞に心が揺すぶられます。
物語の主軸とは別に、世俗的メディアやそれに共鳴する現代社会、最近の国際社会の動向へのアンチテーゼも含まれて、それがさりげなく心に問いかけるエッセンスの妙味。音楽は控えめで沈黙と対比され、自然で美しい映像が綴られ、ロードムービー的展開で観客は一緒に旅する。舞台で繰り広げられる劇と映画の物語がシンクロしながら、いつしか観客は、物語と舞台の区別が無い世界に導かれていく…これは凄い。
そして、それぞれの役者の静謐だが迫真の演技は見所だろう。西島秀俊が妻役・霧島れいかとのベッドシーンで描く官能的で内省的な演技、終盤の舞台での虚実混沌とした世界で無言での表現など胸を打たれる場面の数々。岡田将生のオーディションシーンや車の中で西島演じる家福に語る長回しの演技は彼の白眉では無いかと思う。ドライバー役・三浦透子のミステリアスな演技と、そして最後のシーン…。
虚構と現実をシニカルにどこかで捉えているクールさは村上文学のエッセンスを見事に表現していて感服。
非常に文学的で知的な作品だが、決して取り澄まさず、映画的面白さが漂う品格のある作品に仕上がっていて、鑑賞した後にこの作品と出会いに心が楽しくなりました。
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