劇場公開日 2021年8月20日

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「恐ろしいほど緻密にできた映画」ドライブ・マイ・カー andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0恐ろしいほど緻密にできた映画

2021年11月23日
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鑑賞方法:映画館

公開からかなり経ってしまっていたが、まだぎりぎり都内で上映していたので駆け込み観賞。
ベルリンに引き続きカンヌでも脚本賞を獲ったということで、まさに世界の濱口竜介監督になりつつあるな…という感慨を抱えつつ。

原作は村上春樹だが未読(というか例によって積読)。表題作に加えいくつかを取り込んで脚本を編んだということだ。ただの個人的な雑感だが、村上春樹を映像化するならやっぱり短編なんだろうなあと思う。村上春樹も映画監督もどちらも生きるというか。「ノルウェイの森」はいまだに無理があったと思い返してしまう。
霧島れいか(そういえば彼女は「ノルウェイの森」にも出てたよなあ)が突然無機質に語り出す物語。強固なのか脆いのか、いずれにしても不確かな絆を見せる西島秀俊と霧島れいかの夫婦の、その終わりがこの映画のオープニングである。
演劇を作っていく過程とその根底に流れる人間関係の機微、という意味では「親密さ」を思い出させるし、どこかで「親密さ」を基底にしている部分はあるのじゃないかと思う。
今回は演目が「ワーニャ伯父さん」と決まっていて、反復的にその台詞が提示されるところが暗喩として効く。
電車を撮るのが日本一巧い(と勝手に思っている)濱口監督は、それが車になってもやはり、微妙な距離感や会話のひとつひとつをきちんと描き出す。
心を抉られるような関係性の可視化というか、西島秀俊と岡田将生のシーンがそれで、あの「物語」に囚われてしまった彼ら、どこにも辿り着けないで、それを受け入れるしかないという残酷さ。
そして北海道のシーンは、あれは究極の諦念に見えた。
どんなにやり直したくても起こったことはもう戻らないし、喪った者たちをずっと心に置いて生きていかなければならない。…そしてそれが「ワーニャ伯父さん」のラストと見事にリンクしたところで、思わず泣いてしまった。
色々な人がいて、感情を抑えたり、抑えきれずに激情に走ったり、耐えたり、耐えられなくて逃避したり。あらゆる感情と関係性の枠線を「ワーニャ伯父さん」を背景に語り切った映画、というか。
179分は私にとっては短いくらいというか、多分相当削るのに苦難を要したのではなかろうか、と要らぬ想像をしてみたり。本読みのシーンだけで恐らく一本映画できると思う。

andhyphen