「それでも生きていく」ドライブ・マイ・カー arakazuさんの映画レビュー(感想・評価)
それでも生きていく
家福の演出方法は、感情を極力廃した本読みをひたすら繰り返すというもの。俳優陣もこれには少々焦れ気味なのだが、この本読みこそ、いざ実際に動きを伴う稽古に移った段階で効果を発揮する。この映画自体、観客も冒頭から家福の妻音による『ワーニャ伯父さん』のセリフの録音を繰り返し聞くことになるのだが、このセリフのひとつひとつがラストに向かってこの物語の中で大きく響いてくる。この映画の俳優陣も感情をむき出しにするシーンはほぼないが、これもラスト近くで家福とみさきが心情を吐露する場面で効いてくる。家福もみさきも自分の感情を押し殺してきたが故に苦しんできたが、お互いに相応しい相手に出会えたことでようやく心のうちを吐き出すことが出来たのだ。
西島秀俊、三浦透子の好演は勿論だが、この映画の中では唯一自らの行動をコントロール出来ない高槻を演じた岡田将生の演技も忘れがたい。
音から聞いたという前世がヤツメウナギの女の話のその後を語るシーン不気味さは、彼の中の闇を感じさせ絶品。
何よりも、原作『女のいない男たち』からの数篇、そしてチェーホフの『ワーニャ伯父さん』を融合させた脚本が素晴らしかった。
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