劇場公開日 2021年8月20日

  • 予告編を見る

「ハッピーアワーの魔法を見てしまうと」ドライブ・マイ・カー タカシさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ハッピーアワーの魔法を見てしまうと

2021年9月3日
Androidアプリから投稿

前提として、濱口竜介のファンなのですが、この作品も良かったけれど、食い足りない。スター俳優だと、かえって演技の鮮度というか、演出で引き出される魅力は限定的なのかも知れない。私は今年に上映する短編集の方がキャストも気心の知れたPASSIONのメンツなのでそちらに期待している。村上春樹の短編小説は楽しく読んでら「木野」で悲しめない男の虚しさに感動した。仕方ないけれど、さすがに行為が鏡に映って見えてしまっているなら、怒鳴るなり表現するのではないか。演劇ということもあり「親密さ」と合わせて語る方が有意義かもしれない。「親密さ」はどうも楽しめなかったがそれと同じかもしれない。時間を溶かすような良い意味での長さはこれまでの濱口の映画を観ていれば驚くほどではない。濱口の本で明かされていた本読みのメソッドをそのまま映像に写しても、面白いとは思えなかった。稽古シーンとしては「王国」に圧倒されたこともあり、そこを越えることはなかった。「あなたはふさわしい」を観たこともあり、脚本の高橋の存在はハッピーアワーでも大きかったのかもしれない。コロナもあり、思うように撮影できなかったのかもしれない。良い映画だが、あの濱口なのだから、もっとすごいはずだ。もう一度劇場で観て評価が変わることもありうるけれど、それでも初見の感想を残しておこう。
10月31日にもう一回観たけれど、それほど感想変わらず。男優の魅力があまりない。男が観て、圧倒される男じゃないのかもしれない。そんなんちゃんと口に出せばいいじゃない、向き合えば良いじゃないと思ってしまう。公園での演技は確かに、素晴らしかった。男優で一番よかったのは、韓国のマネジメントの人かもしれない。あと、安部聡子さんも凄い不思議で楽しい。身も蓋もないことを言うと大して西島に惹かれないことが理由かもしれない。
カッコつけて「僕は正しく傷つくべきだった」とありますが、ゲスく言い換えれば「なんでキレられなかったんだろう」な訳でキレるという方法で傷を表現したっていいのになぁと思ってしまった。キレるなんて幼稚な表現ができているうちはまだまだ人生イージーなのかもしれない。さらに具体的にどうキレるか考えると、もし私も西島のような状態になったらまずパンツを脱いでからキレに行くのが正解なのではないかと思う。
更に考えるとセコい発想だが、夫人と問題が表面化する前に死んだので問題から逃げ切れたとも言える。死なれるとあまりに大きな悲しみの為に不倫されていた傷がショボくなり、不倫についてはうやむやに出来てしまう。そんな自己保身をしてしまう自分に嫌気が差すという話だけれど、他人から観ると上手く修羅場から逃げ切れてキレイな思い出のまま死なれて揉めなくてよかったねとも言えるかもしれない。問いただしたり、キレた後に死なれたりしたら、もっと悲惨になっていたように思うのでこの主人公は処世術に長けているとも思える。

タカシ