劇場公開日 2021年8月20日

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「感情を抑えたテキストに、呼応するもの。」ドライブ・マイ・カー bikkeさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0感情を抑えたテキストに、呼応するもの。

2021年8月29日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

心に残った箇所を:

ワーニャ伯父さんの劇中のセリフ、
苦しくても生きていくの、そして静かに死ぬの。
にグッとくる。韓国手話のなんと饒舌なことか。稽古では自分の体を使って表現していた手話を、なんて苦しいんだと吐露する家服さんを包むように語りかける、その大きな温かさ。

生きていたら23歳、娘の年のドライバーと、
北海道へ。そこで妻が本当は自分に真正面から関わって欲しいと思っていたことに気づく家福。それまで全ての感情を抑えできた彼が、遅すぎると泣きながら、後悔する、そして
今を見すえていく。妻の声のカセットにかぶさるようにドライバーに問いかける後半の車内、それは妻がいた過去から今、未来へと視点が移っていくことを示しているのか。

車内でタカツキが語る妻の話も圧巻、自分は空っぽだと言いながら、そこには濃密なものがある。だからこそ彼は、彼女といる時間、彼女の脚本に憧れたのだろう。

赤いサーブが何度もトンネルを抜けて走り続ける。サンルーフから突き出したタバコ、唸る車内、そして無音の世界へ。妻の抑えた台詞を読む声が届かない雪の世界へ。
妻が淡々とセリフを読む声と、家服が感情を抑え込んできた日常は呼応している。お互いを気遣い失いたくないあまりに、自分を差し出せないできた日々を象徴するかのよう。
3時間の長さを感じさせない映画だった。

bikke