劇場公開日 2021年8月20日

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「「言葉」を体に慣らしていく」ドライブ・マイ・カー まささんの映画レビュー(感想・評価)

5.0「言葉」を体に慣らしていく

2021年8月28日
PCから投稿

多くの方がおっしゃる通り、3時間の長尺がまったく気になりませんでした。
独特なセリフ回しのなか、ストーリーが大きく展開するわけでもないのに、最期の最後まで惹きつけられました。

作中劇のワークショップシーンは、濱口竜介監督の実際の演出方法だそうです。
台本(テキスト)を淡々と読み上げる作業を繰り返し、言葉を体に慣らしていく。

きっと本作でも、丹念にこの準備がなされたのだと想像しています。

この演出方法により作り上げられた、多言語による作中劇は見事で、コミュニケーションにおける「言葉」の持つ役割を考えさせられます。

コミュニケーションにおける、言葉(テキスト)に、感情、体感覚、相互の関係性、空間、環境要因が取り入られながら、コミュニケーションが成立していることが良くわかります。
公園での練習シーンや、ラストの舞台でも、そのことが深く染み入りました。

西島さん演じる主人公が亡き妻に対して抱いてきた特別な想いや、向き合うことのできなかった感情は、演じないことによって表現されていきます。

だからこそ、ラストシーンでの「言葉」を使って発露される感情は、私には大きく響きました。

そして運転手の彼女は、運転しないときには「文庫本(言葉)」を手放さない。感情に向き合わないようにするため、言葉の中に逃避しているように感じました。

濱口竜介の次回作「偶然と想像」(2021年12月公開予定)も楽しみです。

ビートルズは大好きだけど、村上春樹作品はまったく読んだことがありません。
読んでみたいという欲求が高まるまで、もう少し待ってみます。

まさ