「美しい海、高速道路」ドライブ・マイ・カー またぞうさんの映画レビュー(感想・評価)
美しい海、高速道路
3時間に迫る長尺に躊躇しつつも、海外受賞の邦画への自分の評価が最近どんどん合わなくなってきているので、そこの興味もあって挑戦してみた。見て良かった、迷ったら見た方がいいよ、と思う。
美しい映像と興味を引き続ける舞台設定・登場人物たちに、結果として3時間は全く長く感じず、筋次第ではもう少し見ても良かったかな、配信のミニシリーズでもいいかな、という感覚。短く刻もうと思えば刻めるシーンも多々あったと思うが、確信犯で残しているな、と理解。
役者としては、台湾出身の女性と韓国の手話を操る女性の二人が器用で印象に残った。屋外で二人で行うリハーサルのシーンは、そこにある木も葉も取り込んで、景色も筋の上でもとても美しいものになっていた。また音さん役の霧島れいかは顔を覚えていなかったのだが、男を連れ込みながらも夫を愛している姿に、もちろんそういう設定ではあるが無理がなく、何より美しかった。
しかし、岡田退場後の二人の会話にいろいろと納得をしつつも、いくつかの事情で、芯から乗り切れない感情が、結局ラストまでつながってしまった。
まずは、岡田将生の役柄がわかりづらかった。軽はずみで直情的な行動で立場を失っていく役柄と描かれながら、一方では主人公夫妻の脚本・演出に深い理解を示し、またサーブの後部座席では人間をわかりきっているような上からのコメントを残す。特に再登場後に軽さが協調された後だけに、中間で少し深みを見せておいてほしかった。
もう一か所は、広島→北海道(しかも札幌近郊まで)のロングドライブ。どれだけ遠いのか。海外では距離感をつかめないと思うが、二日間考える時間がある、という中で車とフェリーで行こうとする距離ではない。タイヤは大丈夫か、とかも気になるし、帰れないと思う。 こうしたちょっとしたところで冷めてしまうので自分ながら面倒だな、と思うが、最近の「竜そば」の四国からの上京もそうだが、もっと無理がない距離感での舞台設定は可能なはず。今作では広島にこだわるなら長野あたりにするか、北海道にこだわるなら仙台あたりにするとか、誰も意見しなかったのだろうか。