「高クオリティのミュージカル」ザ・プロム しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)
高クオリティのミュージカル
メリル・ストリープとニコール・キッドマンの出るミュージカルだと思って観に行ったんだけど、実はストーリーの中心は彼ら「大人世代」ではなく、若者たちだった。
いや、だから良くないって話ではなく、いい意味で予想を裏切られたんだけど。
ブロードウェイ・ミュージカルの初日が終わったばかりのベテラン女優のディーディー・アレン(メリル・ストリープ)と、相手役俳優のバリー。
ところが、2人の演技は批評家にこき下ろされてしまう。
名誉回復と注目を集めることを目的に、その「ネタ」を探していた2人が目をつけたのが、インディアナ州のある高校で、同性愛者の女の子がプロムから排除される、または、プロムそのものを中止にしようとしている、という騒動。
そこに、ミュージカル「シカゴ」の端役を演じているアンジー(ニコール・キッドマン)、売れないコメディアンのトレントが加わり、インディアナに乗り込むことになる。
歌率高し。
しかも総じて高クオリティ。ほとんど名前を知らない役者たちの歌とダンスが超絶上手くて、ビビる。
いつも思うんだけど、アメリカのショービジネスの底辺の巨大さは恐ろしいよね。
特に、準主役で、レズビアンの女の子エマを演じたジョー・エレン・ペルマンはソロも多くて魅せる。
全編を通じ、歌のシーンの強さは特筆モノ。元がNetflix作品なんだけど、チャンスがあれば大画面、音がいい映画館での視聴がオススメ。
特に男女混成の楽曲が素晴らしかった。
ミュージカル特有のご都合主義が気にならないわけではない。
特に校長先生とPTA会長の変心は「そんなにカンタンかよ!?」と突っ込みたくなる。
とはいえ、全編を覆う「性的マイノリティや世代をめぐる分断や差別、不寛容と相互理解、多様性」というテーマの説得力は、まずまずあり、脚本が極端に雑なわけではない。
エマや彼女の恋人の親子問題には、バリーの母のエピソードが重なるなど、複層的にストーリーを重ねる脚本の工夫もある。
大人たちが寄ってたかって若者に手を差し伸べるのがいい。
その動機には「大人の事情」があったのかも知れないが、やがて、大人たち自身も救済されていくのもいいね。
画面の色彩設計も見どころ。
全体としては、画面にLGBTの象徴であるレインボーカラーを作ろうとしていたと思う。
その上で、各場面の歌唱シーンに加わる役者が、今度は何色の服を着るのか?と、予想しながら観るのも楽しい。
バリーの母親役が、80年代に活躍したシンガーのトレイシー・ウルマンで驚いた。
アメリカ映画は、差別表現にうるさいイメージがあるけど、特定の地方(特に田舎)や出身地を笑い物にすることは意外と多い。本作でも、インディアナ州を盛んに田舎呼ばわりしてるんだけど、こういうのが問題にならないのか不思議だ。