劇場公開日 2020年11月20日

「マンクのモデルや『市民ケーン』との作品上の関連性など、重層的な読みを促してくれる一作。」Mank マンク yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0マンクのモデルや『市民ケーン』との作品上の関連性など、重層的な読みを促してくれる一作。

2021年2月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

モノクロームであるため、一見地味な印象を受ける本作ですが、映像は非常に豊潤、というか偏執的です。これこそ紛れもなく、フィンチャー作品だと納得させられます。映画史の金字塔である、『市民ケーン』の脚本を執筆したハーマン・マンキーウィッツの、まさに執筆過程を物語の一方の主軸に据えた内容であるため、さすがに『市民ケーン』(1941)を事前に鑑賞していないと、本作の舞台設定、人物関係を理解することはかなり困難でしょう。これが本作のハードルを少し上げていますが、『市民ケーン』は現在の視点でも十分に面白い作品なので、未見の方はこれを機会にご覧になることを強くおすすめします。

先に執筆過程の状況を物語の「一方の主軸」と表現したのは、本作には別の時間軸、つまりマンキーウィッツ(マンク)の回想場面が含まれているためです。この過去と現在が交錯しつつ物語が展開していく構造は、まさに『市民ケーン』と同じで、作品全体が、かの名作の合わせ鏡として機能しています。さらに、デジタル映像が主流の現在では全く不要になった、パンチマーク(フィルム交換を撮影技師に合図するために右上に表示される黒い印)を差し挟むという念の入れよう。往年の映画ファンなら本作が、フィルム時代に作成されたと錯覚するかも知れません。こんな細部に、前述したフィンチャーの偏執的な特徴が現れています。

本作は、フィンチャー監督の着想によって作られたのではなく、脚本家だった彼の父親が執筆した脚本を映画化したものです。つまりマンクとは、単なる実在の人物でも物語の登場人物でもなく、彼の父親の姿だった、という解釈も可能でしょう。物語と同様重層的な読みを促す作品です。

yui