劇場公開日 2020年11月20日

「『市民ケーン』に憑りつかれた者たち」Mank マンク regencyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0『市民ケーン』に憑りつかれた者たち

2020年11月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

知的

難しい

『ソーシャル・ネットワーク』で『市民ケーン』のような作品を撮ったデヴィッド・フィンチャーが、今回は完全に『市民ケーン』を撮ってしまった。
フィンチャー作品といえば、怒涛の対話劇と圧倒的な情報量がウリだと思っているが、今回はまさに“全乗せ”状態。特にハリウッド黎明期の小ネタを随所に盛り込んでるので、ルイス・B・メイヤーだとかアプトン・シンクレアだとかマルクス兄弟とか言われても、知らない人には全く分からないと思う。
そういう意味でフィンチャー作品は、一見さんお断りなところは無きにしも非ずだけど、それでも観てしまうのは、やっぱり「デヴィッド・フィンチャー」というブランドが確立されているから。

ウィンストン・チャーチルを演じた時は肉襦袢を纏っていたゲイリー・オールドマンが、本作ではチャーチルを彷彿とさせるでっぷり体型を造っていて驚き。クライマックスでの大演説は白眉。彼はもう個性派俳優ではなく「名優」の肩書を纏ってしまった。
また、オーソン・ウェルズ役の俳優が実に本人そっくりだったり、『仁義なき戦い』の金子信雄扮する狡すっからい組長を思わせるルイス・B・メイヤーの面の皮の厚さなどニヤリとするシーンもあり、フィンチャー作品の中でもコメディ色が結構強いかも。
ゲイリー演じる脚本家マンクは、権力を持つ者の意向一つで製作体制が変わるハリウッド業界に抗うフィンチャー自身。そんな彼が、自由な製作体制で映画が撮れるNetflixを選んだのは自然の摂理なのかもしれない。
今回は先行劇場公開で観たけど、これだけ情報量が多いと、やっぱりこの作品は自宅とかでじっくり観られるNetflix向きなんだろうな。

regency