劇場公開日 2021年9月23日

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「なんだか吉本新喜劇みたい」総理の夫 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0なんだか吉本新喜劇みたい

2021年9月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 何故キスシーンがなかったのか。当然ここはキスだろうと思えるシーンはいくつかあった。その殆どで、妻は顔を夫に向けているのに、夫が避けたように見えた。妻の年齢は42歳という設定だ。演じた中谷美紀の年齢も45歳と近い。昔ならいざしらず、最近の女性は見た目も体力も若いから、40代はまだまだ女盛りだ。ましてやあれほど美しい妻である。キスしないほうがどうかしている。
 原作は未読なので映画の内容からの判断だが、主人公相馬凛子と夫の日和は大学が一緒だったか、幼馴染みたいな関係だ。年齢もほぼ同じだろう。中年夫婦である。出来れば濃厚なキスシーンを演じてほしかった。田中圭か中谷美紀のどちらかサイドからキスNGでも出ていたのだろうか。謎だ。アメリカ映画では不必要なキスシーンがやたらに多いが、本作品ではキスシーンが必要だ。濃厚なキスシーンがあれば、本作品のリアリティが相当に増したと思う。

 映画の公開が、たまたま不要不急の総裁選のさなかだったが、外見も中身も美しい相馬凛子に比べて、現実の候補者たちの冴えないこと甚だしい。テレビのアナウンサーが言う、総裁選の勝者が事実上の総理大臣という言い方も引っかかる。その後の衆院選がどうなるかわからないのに、事実上の総理という言い方は、総選挙で与党が勝つことを前提にしている。野党が勝つ可能性もあることを考えると、不正確な言い方である。場合によっては共産党が圧勝して志位和夫や小池晃が総理大臣になる可能性もゼロではない。総裁選の勝者が事実上の総理大臣という言い方は、有権者を誘導している気がする。

 作品の評価だが、あまり高評価はできない。主人公の日和が、推定42歳の鳥類学者にしてはおどおど、ビクビクし過ぎている。学者というのはもっと内省的で、分析的である。感情的な行動や突発的な動きはしない人種だ。まして日和は良家のお坊ちゃんだ。泰然自若としているのが自然だろう。しかし本作品の田中圭の演技は、落ち着きがなさすぎである。笑いを取るためであろうとは思うが、笑いのシーンはみんなステレオタイプだった。さあここで笑ってくださいと言われているようである。
 逆に凛子は落ち着き過ぎである。表舞台では政治家として自信に溢れて落ち着き払った態度を取るのは当然だが、裏ではドタバタ、ジタバタしているのが当然だと思う。怒り狂った場面があれば、表舞台とのギャップにリアリティがあっただろう。政策にも演説にも突出した独自性がほしかったが、ありきたりの無難な政策、演説に終始していた。政治風刺映画にもなっていないと思う。

 田中圭も中谷美紀も、演技は満点だ。しかし商業主義的な演出によって、それぞれのキャラクターが軽くなってしまった。なんだか吉本新喜劇みたいだった。

耶馬英彦