ある人質 生還までの398日のレビュー・感想・評価
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“交渉”を公にできない苦しみ
ノンフィクション系で、「観ての通り」という作品であった。
(このような“武装勢力による拉致”では全然ないのだが、)とあるアフリカの国で、車に乗せられて見知らぬ地に連れて行かれて、金銭を要求された経験のある自分としては、主人公の行動は意外なところがあった。
それは、いったん逃亡に成功した時に、地元の人間を容易に信用してしまったシーンである。
自分は逃げた後、地元の人間を見ても、誰も彼も敵に見えて信用できず、絶望的になったのを思い出す。(たまたまヨーロッパ人が通りかかったので、助かったが。)
また、人質の国籍だけでこんなにも状況が変わってしまうのか、と驚いた。
総じて欧米人は、イスラム原理主義者には憎まれている印象があるが、本作ではデンマーク人とアメリカ人の間の差は、決定的だった。
その他、人質解放エージェントの実態や、“交渉”を公にできない理由と苦しみなど、ニュース報道では分からないことが盛りだくさんで、いろいろと勉強になる作品である。
テーマはいいのだろうが、、、、、、
そもそも、やることが見つからない平和な国の若者が紛争地帯の現実を伝えたいから写真を撮りにいくという入り口から怒りを覚える。
誰かがやらないといけないから
覚悟がいるのでは??
覚悟はあったのか??
ああなるであろうことはわかっていたはずだろう。
しかし、見ていくにつれて苦しさの中に、絶対的な惨劇の中に同情とでもいうのか不思議と怒りでは無く助けたいと思えたからよかった。
救出交渉人の「無知な若者」
経営者の「会社としての立場」
苦しみ続けた家族
自己責任論あってもいいだろうと思ってしまった。
平和であることに麻痺せぬ様に
素晴らしい。
このての映画は大概好きだし素晴らしかったりするのだけれど、誰でも視られる様なレーティングで作られているのに、胃袋を掴まれる様な息苦しさや、知覚出来る程の痛みを伴っている。見事な教科書的映画とでも言う感じだろうか(安っぽいけども)。
確かに、主人公は若さと青さで無用心だったのかも知れないけれど、コーディネートはキチンとしたのだろうし、多くの報道関係者もそうだったのだろう。そして戦争もなくならない。
哀しいけれどこれが現実なのよね。
秀作だと思います
それだけに、上映する映画館が少ないのが残念です。内容はタイトルが示していますが、予想以上に感銘を挙げる作ではないかと思いますので、ご覧になれる地域にお住まいなら、是非にとおすすめします。
一番辛いのは
捕まった本人が辛い目にあうのは当たり前だが、一番辛いのはその家族じゃないかなと思う。助けたいのにお金がない、お金がないという理由だけで見殺しにしてしまったらこれから先、その家族は一生大きな心の傷を抱えて生きることになる。見殺しにしてしまった自分を責め続けることになるのだ。これはかなり辛いこと・・
本件のようなケースはレアなのだから、報道写真家と呼ばれる方は自助努力を尽くして欲しい。
実話というのが恐ろしい
純粋に、こんなことが同じ世界で起こっているということが恐ろしく感じた。
人間がこんなにも雑に扱われる。それを知りながら、動けない政府。難しいところもあると思うが、色々と奮闘する家族が、すごくたくましい。
平和ボケしている日本人に、見てほしい
家族の心の叫びが重い
見応えのある作品でした。
若いカメラマンが、ISの人質ビジネス連中によって拉致されてからの拷問と監禁の様子を、リアル寄りに再現。
ノンフィクション「ISの人質 13カ月の拘束、そして生還 」あたりをベースにしているっぽかったです。
一番心が痛かったのは、本人よりも家族の描写。
デンマークは国家として、身代金に関しては交渉すらせず、一切払わない方針。
なので、家族が個人として家を抵当に入れた借金と、募金でどうにか集めようと必死になる様が、胸が掻きむしられるようにつらかった。
日本も以前、後藤さんってジャーナリストがISに拉致されて、当時の日本の首相が自己責任論をベースに「ISは敵だ」と世情を煽ったんで、IS側は侮辱されたと受け取って引き金引いちゃったよなぁ……
イスラム過激派って、ああいう考え方をするんだというあたりについて理解を深める一助にもなりました。
けっこうよかった
シリアのかなり厳しいエリアに全くの初心者なのにずいずい行って、あっさり捕まってしまうのがどう考えても迂闊。しかも監禁部屋にいるベテランジャーナリストたちの中に、初心者として混ざっていて肩身が狭くなかっただろうか、そんなことが気になっていたたまれない気持ちになる。危険な場所は避けるに限るし、大した用もないのに自分からのこのこ行くのは絶対にNGと改めて思わされる。
ドコに立って誰の視点で観るか
善意も悪意も、正論も暴論も、懐柔策も強行策も、ここではすべてが不幸に導かれている。
デンマークでは身代金のために金を集めることは「違法」という線引きだったが、仮に違法でなくとも、その金はほぼ間違いなく次なる誘拐や殺戮のために消費されることを考えれば、資金援助は本当に正義なのか。
もちろん大切な家族や愛する人を取り戻すためにすべてをなげうってでも…という気持ちは分かる。
しかし。
加えていうなら、おそらく現実にはこういう話にはアートゥアの様な真っ当な交渉人ばかりではなく、不当に金を引き上げて中抜きをする、いやそもそも仲介しているかさえ怪しい人質ブローカーみたいな人達も寄生していることを考えても「家族の元へ引き渡されたこと」が、決して単純な美談では終わらせられないことになる。
(いや、これが実話に基く話だけに、正直なところ作中のエピソードとは別に「ダニエルはホントに危険な地域だと認識してなかったのかな」「ホントに疑われる様な行動や撮影はしてないのかな」「あの女性ガイドが仲間だった、なんてことはないのかな」「アートゥアってやつ、私があの家族なら疑うよな」って最後まで思って私は観てたし…)
ダニエルの無事な生還を願った家族と、残酷極まりない武装集団たち、そして捕虜同士に芽生えた友情、という被害者のミニマムな視点で観るからこのお話は作品として成立するし、そういう前提においてグッとくる場面も多い。でも私の様にそれをどうしても客観視してしまう立場の人間としては、『46クローネ』や『人狼』など、不幸の中に描かれた「小さな光」にも、正面から「いい話」とは受け取れなかった。
その辺りはドコに立って誰の視点で観賞したかで印象は変わるんだろう。
でも、暴力など残酷な描写は映像としては比較的抑制されていて、それでもあの捕虜生活のイヤな感じがしっかり描かれていたし、あの武装集団リーダーも、生命を奪うことには躊躇する瞬間があることを描くなど、いろんな視点を盛り込んでいるのは憎いなあ、と感心する。
これを星の数で評価するのは非常に難しい。
私としては物語の中身にはノれなかったが、映画としては良く出来ていると思うので3.5とさせて頂いた。
果たしてテロに屈しない姿勢とは?
ワンデーパスポートでたまたま時間が合い観賞
事前にはあまり知りませんで
デンマークの若い写真家ダニエルがISISに拘束され
身代金要求のせめぎ合いの後奇跡的に解放された
実話を基にした映画
感想としては
ここんとこのコロナ禍ですっかり注目が下がった
シリア情勢ですがやはりテロリズムとの戦いという
図式も改めて忘れちゃいけないと思いました
そしてテロと戦うと一言で言ってもそれはどういう
事なのかと考えさせられました
体操選手の夢を絶たれ写真家として食っていく
つもりだったダニエルはISに拘束され
人質解放の交渉と家族の身代金の工面をめぐる
駆け引きが展開していきます
政府はテロに屈しない方針から身代金を用意せず
家族は民間からお金を集めますが身代金を払うことが
テロに加担することになるのではないかという意見も
見られ金策は難航します
前から思ってますがこの論調っておかしいと思います
テロリストは国家に攻撃するために誘拐をしますが
被害にあうのは個人で身代金要求はビジネス
なのだから払ったところでテロに加担とは
ならんだろうと思います
むしろテロに加担すると考えてしまうほうが
テロリストの思うつぼと思ってしまいます
日本も同種の人質事件があり自己責任論など
展開されましたがあれはあまりに「うさんくさい」
人が人質になったのでああなってしまった感じでした
途中韓国人と名乗ったりね
民間企業の人が拘束されてああなったのなら
全然論調は違ったと思います
報道に関しても家族が身代金の工面をしている
事をマスコミがかぎつけ抑えようとしますが
言論の自由があるといった言葉が出てきます
自国民に生命の危機が及ぶ段階で権利も
へったくれもありません
昨今のメディアは自分たちの正当性を
自分たちで決めてしまうのでもう目にする価値すら
殆どありませんがテロリストを憎む以前に
こうした扱い方のおかしさでテロリストを助けて
しまう現実にももっと目を向けなければいけないと
思いました
150分はちょっと長いかもしれませんが
今の時期だからこそこうしたテーマの映画も
観ておくに限ると思いました
よく生きて帰ってきたな〜
ボディガード、全然役に立たないじゃん。何あっさり銃渡してるのよ。
逃げた出したのはイイけど、地元に人に助け求めるって…敵陣にいるのに、警戒心無さ過ぎ。平和ボケしてるのか?おめでたい奴。なんでこんなに無知で無防備な奴がシリアに行くのよ!とイライラ。
何はともかく生きて帰ってこれて良かった。
人を殺すのに最初は罪悪感を持つが、二回目以降は信仰・信念のためと割り切れるらしい。
あの彼、撃ち殺す時に手が震えて緊張感が伝わってきたけど初めて殺したのかな…(じゃ、今までは部下が殺してたのか?)
やや問題提起が足りないといえるが、それでも報道の自由等を考える良い機会。
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★ 内容的にセンシティブな映画です。
一人の意見であり、他を否定するものではないことをかたく断っておきます。
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今年38本目(合計105本目)。
タイトル通り、もう「帰ってくる」ことは前提になっていますし、この映画自体は事実(イスラム国問題)に着想を得たものなので、史実に基本的には沿っています(最初にそのように出ます)。
この映画自体が伝えたいと思える点は色々あろうかと思います。
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・ 報道の自由/取材の自由(参考:日本国憲法21、判例)
・ 内心・信教の自由 ※ 内心は絶対に保障されるが、信仰は他に露出したとき、第三者調和(公共の福祉)が考慮される(迷惑をかける宗教は否定・制限されうる)、19条)
・ 海外旅行の自由(参考:22条2項) ※国内旅行は22条1項
・ (常識的な範囲の)自己決定権(13条) ※尊厳死に関すること等もここに入る
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これらは書くまでもなく、海外でも同じように考えられており、それはこの映画でも同じです。特に「報道の自由」「自己決定権」は人が人たるに値するもの、また、人が色々な情報を得ていく前提となる権利ですので、そう簡単には否定できません。しかし、報道の自由はときに(日本でなくても)どこの国基準でも「海外への渡航」が問題になりますが、そうなると他国との関連が問題になるので、絶対無制限ではなくなります(有名なところでは、帆足計事件。海外旅行の自由が22条2項で保障されるとしたうえで、それでも公共の福祉に反する場合には否定されるとした)。
※ 22条1項の国内旅行の自由も、例えば破産の場合の移動の制限等ではそちらが優先されます(他、拘留されている場合等)。
これらのことは日本の憲法のことですが、主要な国ではこれと同種なことは保障されており(もちろん、条文番号等は違う)、それをそう否定するのは容易ではありません。そして海外でもそれを保証するのは、日本でいう憲法に相当するような国家の基礎をなす最高法規です。そこで安易に「自己責任論」を連発するのは、それもそれで理解はできますが(日本の場合、その救助費は税金)、一方で日本にせよ海外にせよこうした権利は守られていることを忘れてはいけません。
多くの方が書かれている内容と同じことを繰り返して書いても仕方がないので、他の視点でもう1つ。
この映画自体は、助ける側、さらう側(イスラム国)側ともに平等に描かれているように感じられます。ただ、イスラム国(ISIL)がなぜこのような暴挙に出たのか、またそもそも宗教対立によるテロ問題が生じているのか?という問題提起が足りていないように思えます。
それは、1920年代のイギリスの「二枚舌・三枚舌政策」で、アラブの国々が激怒したイギリスの「サイクス・ピコ協定」であり、元にイスラム系の国ではこの協定のことはイギリスを「たたく」絶好のネタになっています。しかし、これがなければイスラエル問題も複雑化していたのもまた事実であり(ひとつ前にみた「愛と闇の物語」に書いてあります。よって、イスラエル問題とISIL問題を「同時に」引き起こしたのはイギリスの矛盾した二枚(三枚)舌政策が原因」というのが今日の一般的な考え方です(少なくとも、その手の書籍ではこの点は必ず触れられます)。
※ イギリスは3つも矛盾する条約を結んでいるので、全てを同時に解決・納得させるのはもう無理なほどになってしまっています(少なくとも、イスラエル問題とISILを取り巻く問題を同時に解決するのは無理に近い)。
この点に関する問題提起がなく(もっとも、内容的にイギリスを「たたく」ような映画とするのも変ですが…)、そこは「両者の立場をフェアに描く」のなら、この問題を引き起こしたイギリスの当該政策についてもさかのぼって触れるべきだったのではないか…と思われます。
加点減点要素は下記の0.1だけですが、軽微なので5.0まで切り上げています。
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(減点0.1) 上記のように、ISIL等の複雑な問題を生じた(これは極端ですが)問題、もっといえばイスラム系諸国の争いは元をたどれば宗教戦争的な争い(シーア派vsスンナ派、厳格にイスラム教の教えを説く(サウジアラビア等)vs「宗教としては置くが、かなり緩く解釈する」(トルコ等が代表例))も当然あるものの、最大の問題はやはり、イギリスの二枚(三枚)舌政策でイスラム系諸国を激怒させた「サイクス・ピコ協定」があることはこれはもう紛れもない事実です。
真にフェアに触れるのであれば、この点についても触れるべきだったのではないか…とは正直思えました(イギリスを「たたく」のが目的ではなく、真にフェアに扱うなら、なぜこのような極端な状況が生じたかについて、根本たる原因を知る必要があるが、それはここに帰着されるため)。
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もっと複雑な事情じゃないかと。
シリアにて簡単にISに拉致されたデンマーク人の写真家の主人公。そこからはずっとラストまで、心臓がドキドキしっぱなしだ。
実話ベースということをあらかじめ知っていたので、フィクション映画をいつも見て堪能していた時とは違ってオイラには結構衝撃的シーンの連続で、残念ながら気分が悪くもなったりした。
良い映画であることは間違いないのだろうが、生還したとはいえなんかすっきりする作品ではない。
今までにも似たような人質救出映画はあったような気もするが、本作は先にも述べたように実話ベースなので、エンタメ性のある救出劇を描いたものでは無いのは仕方ないところ。
【以下、思いっきりネタバレ注意】
そして、その救出方法は結局のところ身代金の提供となるわけだが、囚われていた各国の対応が違うというところが見所になるということなのだろうか。
複雑な事情を含むシリアなわけで、もう少し、デンマークとISの構図だけではなく、シリアの民間人だったり、政府だったりISと対立する組織だったり現地シリアでも人質解放に動くような展開を期待したのだが。
戦争映画から現実の話へと変わりゆく話
デンマーク出身のカメラマンがシリアで捕獲されて救出されるまでを描いた映画。
日本でイスラム国が話題になったのはもう何年も前だろうか。オレンジ色の衣服をまとった日本人がひざまずき、近くにはイスラム国構成員が立っている映像を思い出す。その後彼が殺されたことも。
この映画の恐ろしいところは、導入はさながら戦争やスパイを描いた映画でありながら、時間の経過とともに「テレビで見たあの映像」へと迫っていく、フィクションが現実へ追いつく過程を味わうことができる点である。
戦争映画はともすれば「映画」としての見栄を重視されがちだ。爆撃や重火器は大迫力で撮影し、戦闘服をまとった戦士たちはどこか我々の現実から遠い存在のように思える。
しかしこの作品では、ただストーリーを追うだけで現実へたどり着くことができる。青年の捕獲に始まり、「シリア」「人質」「政府は交渉に応じない」「イスラム国」「同胞と同じ目に合わせる」など、現実世界で聞き覚えのある単語が次々と出てくる。
果てはイスラム国による「見せしめ」の映像だ。私はあのオレンジの服を見た瞬間、主人公の青年も死んでしまうのではないかと思った。あの服には死のイメージしかなかったから。
主人公を非軍人にして、彼の恐怖を描くさまは「ウトヤ島」に似ているかもしれない。しかしあの作品ほどひりついた恐怖もなければやるせない最期でもない。現実世界のテロルを描きながらちゃんと映画でもある。良作。
いやー、厳しい。
面白いとか面白くないとかでなくて厳しい。平和慣れした自分の生活とかけはなれすぎていてどうしたらよいのか。日本人でも人質にされつ物議をかもしていたけれどこうなると誰も幸せにならない。といって見過ごすわけにもいかないだろうし。実話ベースだけに重い、が、あっという間に引き込まれました。
なかなかの絶望感
映画のタイトルに生還って書いてある時点で助かるのは分かっているのですが、一緒に捕まっている人質たちがどうなるかまでは分からず、終始嫌な気持ちになる作品でした。ホテルムンバイでもそうでしたが、あいつらが一番アラーを侮辱してるよな、と思って観ていました。
愚かなのは日本も同じ
イスラム国についてはISやISILなど、いろいろな呼び方があるが、ここでは日本語表記のイスラム国と呼ぶことにする。
ジャーナリストの後藤健二さんが湯川遥菜さんとともにイスラム国に拘束監禁されて10億円=約1000万ドルの身代金を要求されていたときに、たくさんの応援企業の引き連れて中東を訪問したアベシンゾウは、イスラム国を食い止めるために2億ドルを出すと演説した。直後に身代金の額が2億ドルに増額され、その後ふたりは殺害された。
他の国の指導者でそんな子供じみた演説をした人はいない。表の顔と裏の顔を使い分けて、イスラム国と水面下で交渉し、自国の人質を救出していた。日本人にもイスラム国と間接的なパイプを持っている人たちはいたのではないだろうか。平和だけを願っていた後藤さんの無念の死は、アベシンゾウと日本政府による見殺しであった。
背景には、アベ政権のジャーナリストとジャーナリズムに対する軽視あるいは憎悪があったと思う。アベ官邸にとって、都合の悪いことを報じる報道機関は邪魔なだけなのだ。彼らは後藤さんの死をざまあみろと思ったに違いない。当時の官邸には、現総理大臣のスガヨシヒデもいた。冷酷な政権の中でも最も冷酷なのが官房長官だったこの人である。最終的には生活保護があると予算委員会で言い放ったのは記憶に新しい。日本の現首相には国民を救う気持ちなど1ミリもないのだ。
さて本作品はデンマーク映画でデンマーク人の若いフォトグラファーが主役である。彼が撮りたいのは戦場の街や、子供たちをはじめとするそこに住む人々だ。撮影していて楽しい。こんなに素晴らしい被写体はない。だから危険を顧みずにシリアを訪問した。第三者から見れば若気の至りの無謀な行動に思えるかもしれない。しかし戦地の状況を伝えるフォトグラファーがいなければ、我々は悲惨な現実を知ることがない。後藤健二さんと同じように、主人公ダニエルの行動は非難されるべきではない。
シリアの出入国事務所のすぐ近くには銃を携えた兵士がいる。シリアにはいくつかの武装勢力があり、ダニエルは自由シリア軍という勢力にバックアップを頼んで撮影に行くのだが、イスラム国と見られる男たちに捉えられ連れ去られる。
問題はふたつ。ひとつはイスラム国にヨーロッパの他の国から参加している人がいること。ダニエルを拷問したのは主にその白人だ。不満のはけ口をイスラム国に参加して暴力や殺人を行なうことに求めていることだ。もうひとつは、イスラム国や自由シリア軍などが持っている武器はどこからきているのかということである。
難民が自国に押し寄せてきていることの反動かもしれないが、イギリスやフランスの若者がシリアにまで行ってイスラム国に加わるというのは感覚的には信じ難い。例えば日本人の若者が同じようにシリアに行ってイスラム国に加わり、韓国から来たジャーナリストを拷問するなどということは想像しにくい。しかし捕虜たちからジョンと呼ばれる白人の男がダニエルを拷問したのは確かだ。ほぼ無宗教の日本人と日常的に宗教と関わる国の違いだろうか。
中東の紛争だけでなく、世界中の紛争にはほぼアメリカ製かロシア製の武器が使われている。最近ではもしかすると中国製や日本製の武器も使われているのかもしれない。アメリカの軍需産業の市場規模は約70兆円である。日本のGDPが約500兆円であることを考えると、単純比率で考えれば日本の労働人口の14%、つまり840万人のアメリカの労働者が軍需産業に関わっていると推定できる。この人数が生計を立てていくために世界中に武器を売っているのだとすれば、アメリカの軍需産業の罪深さは底知れないものがある。
人間は他の動物に比べて環境順応性が高く、過酷な環境にも慣れる。それはブラック企業が存続できる理由のひとつでもある。そしてブラックな国家についても同じことが言える。テロリストに拘束された人も、苦しい毎日に慣れる。しかしそれは自由も希望もない日々だ。
ある人がダニエルに託した言葉が本作品の肝である。「奴らの憎悪に負けるな」と彼は言う。なるほどと思った。世界の紛争は憎悪と不寛容の精神性に端を発し、世界の軍需産業が拍車をかけているという構図なのだ。人間の愚かさの典型的な図式である。日本の軍需産業は5兆円の防衛予算に支えられている。日本が戦争に巻き込まれる可能性は限りなくゼロに近いのに、どうして防衛予算が毎年増えるのかについてのからくりもここにある。愚かなのは日本も同じなのだ。
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