劇場公開日 2021年2月19日

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「ドコに立って誰の視点で観るか」ある人質 生還までの398日 キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ドコに立って誰の視点で観るか

2021年2月24日
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善意も悪意も、正論も暴論も、懐柔策も強行策も、ここではすべてが不幸に導かれている。

デンマークでは身代金のために金を集めることは「違法」という線引きだったが、仮に違法でなくとも、その金はほぼ間違いなく次なる誘拐や殺戮のために消費されることを考えれば、資金援助は本当に正義なのか。

もちろん大切な家族や愛する人を取り戻すためにすべてをなげうってでも…という気持ちは分かる。

しかし。
加えていうなら、おそらく現実にはこういう話にはアートゥアの様な真っ当な交渉人ばかりではなく、不当に金を引き上げて中抜きをする、いやそもそも仲介しているかさえ怪しい人質ブローカーみたいな人達も寄生していることを考えても「家族の元へ引き渡されたこと」が、決して単純な美談では終わらせられないことになる。

(いや、これが実話に基く話だけに、正直なところ作中のエピソードとは別に「ダニエルはホントに危険な地域だと認識してなかったのかな」「ホントに疑われる様な行動や撮影はしてないのかな」「あの女性ガイドが仲間だった、なんてことはないのかな」「アートゥアってやつ、私があの家族なら疑うよな」って最後まで思って私は観てたし…)

ダニエルの無事な生還を願った家族と、残酷極まりない武装集団たち、そして捕虜同士に芽生えた友情、という被害者のミニマムな視点で観るからこのお話は作品として成立するし、そういう前提においてグッとくる場面も多い。でも私の様にそれをどうしても客観視してしまう立場の人間としては、『46クローネ』や『人狼』など、不幸の中に描かれた「小さな光」にも、正面から「いい話」とは受け取れなかった。

その辺りはドコに立って誰の視点で観賞したかで印象は変わるんだろう。

でも、暴力など残酷な描写は映像としては比較的抑制されていて、それでもあの捕虜生活のイヤな感じがしっかり描かれていたし、あの武装集団リーダーも、生命を奪うことには躊躇する瞬間があることを描くなど、いろんな視点を盛り込んでいるのは憎いなあ、と感心する。

これを星の数で評価するのは非常に難しい。
私としては物語の中身にはノれなかったが、映画としては良く出来ていると思うので3.5とさせて頂いた。

キレンジャー