「戦争映画から現実の話へと変わりゆく話」ある人質 生還までの398日 サブレさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争映画から現実の話へと変わりゆく話
デンマーク出身のカメラマンがシリアで捕獲されて救出されるまでを描いた映画。
日本でイスラム国が話題になったのはもう何年も前だろうか。オレンジ色の衣服をまとった日本人がひざまずき、近くにはイスラム国構成員が立っている映像を思い出す。その後彼が殺されたことも。
この映画の恐ろしいところは、導入はさながら戦争やスパイを描いた映画でありながら、時間の経過とともに「テレビで見たあの映像」へと迫っていく、フィクションが現実へ追いつく過程を味わうことができる点である。
戦争映画はともすれば「映画」としての見栄を重視されがちだ。爆撃や重火器は大迫力で撮影し、戦闘服をまとった戦士たちはどこか我々の現実から遠い存在のように思える。
しかしこの作品では、ただストーリーを追うだけで現実へたどり着くことができる。青年の捕獲に始まり、「シリア」「人質」「政府は交渉に応じない」「イスラム国」「同胞と同じ目に合わせる」など、現実世界で聞き覚えのある単語が次々と出てくる。
果てはイスラム国による「見せしめ」の映像だ。私はあのオレンジの服を見た瞬間、主人公の青年も死んでしまうのではないかと思った。あの服には死のイメージしかなかったから。
主人公を非軍人にして、彼の恐怖を描くさまは「ウトヤ島」に似ているかもしれない。しかしあの作品ほどひりついた恐怖もなければやるせない最期でもない。現実世界のテロルを描きながらちゃんと映画でもある。良作。
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