「後味の悪い作品」陶王子 2万年の旅 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
後味の悪い作品
2万年におよぶ「人間と器との関わりの歴史」がテーマのようだが、たった110分なのに大風呂敷を広げすぎで、内容が伴っていない。
サイエンスや文明の観点からのアプローチが中心で、文化面やアートの話はかなり切り捨ててられていると思う。
話は、赤、白、青の3色を巡って展開する。短時間で歴史を語るための、大胆な切り口と言えるものの、いささか無理のある話の進め方だ。
冒頭の、“陶器の誕生”以前の人間の食生活のあり方と、「粘土+砂」による“陶器の誕生”のところは良かった。
また、二段窯化による高温焼成の実現や、回転台による幾何文様の誕生の話など、前半は面白かった。
コバルトで絵付けされた器が、高温で釉薬が透明化し、冷却過程でコバルトが発色する様子を収めた映像は初めてで、勉強になった。
しかしその他は、総じて内容が浅い。
題材の取捨選択の基準もよく分からない。多くの重要なことが抜け落ちている。
古代エジプトのファイアンスという珍しいテーマを取り上げたのを観て、「おっ!」と感動したのだが、結局「水酸化カルシウムを使うと作製できた」みたいな単純な話で、具体性に乏しい。
また、「赤い焼き物は、炎や血の色」など、一個人の意見であって、客観的とはいえない見解も目立つ。
せっかく、のんがナレーターをやっているのに、今一つ彼女の良さを聞くことができない。
せめて「陶王子」という人形を使っているのだから、ストップモーションで動くマイセン磁器みたいな、メルヘンチックな構成にしても良かったと思う。
後半に進むほど、つまらなくなってくる後味の悪い作品だった。
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