「家族の一つの形」ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌 KZKさんの映画レビュー(感想・評価)
家族の一つの形
近年この作品のように完璧じゃない家族の姿を描く作品はいくらかあり、目にしたきたが、
この作品もまたそのタイプでは非常に見応えあり、この家族の形に没入し作品を楽しむことができた。
エイミーアダムス演じるベヴは理想の母親とは程遠い姿である。彼氏や父親を頻繁に変え、その度に子供達は引っ越し環境を変えることを強いられる。
時には子供に暴力を振るい、時には自分を傷つけて近隣に迷惑をかけたり、そして薬漬けになったりと一言で言えば最低な母親である。
でもそんなベヴも昔は学校でも優秀な生徒の1人であり、明るい未来を夢見て順風満帆な生活を送っていたという。どこか歯車が狂ったり、ベヴ自身も両親の暴力下の中育った過去のトラウマがベヴを狂わしてしまっている。
そんな壊れかけたベヴがまともな教育を子供達にする事はできない。
長女は早くに恋人を見つけ彼と生活をすることで独り立ちした。
主人公のJDはまだ幼い事もあってベヴに振り回されて苦しんだが、最後は祖母が母親代わりになる事となり、そんな必死に自分の世話をしてくれる祖母の姿を目にして立派な人間になることを強く心に決め今に至る。
今のJDは立派な社会人である。姉も家族を持ち幸せな様子が伺える。
そんな彼らにまた母親のトラブルに巻き込まれてしまう。子供たちは自立してるが、母親はまだその日暮らしの生活を送っており自立できておらず、歯車は狂ったままだ。
JD達も見捨てようと思えばできる立場であるが、ベヴの過去の事は理解、庇う事はできなくても、過去の事を赦し支え合う姿を過去の描写と繰り返しながら丁寧に描かれた作品である。
改めてこの作品をみても家族の形はそれぞれだという事を実感させられる。完璧な家族などもしかしたら存在しないのではないか。それぞれ色んな問題を抱え、そして解決できないままであるかもしれない。
ただこの作品を見ていると完璧ではないこと、問題を抱えてる事を恥じるのではなく、例え時間を要してもゆっくりゆっくり理想の姿を追っていく事も悪い事ではないと実感させられる。
ある程度の年齢を迎えてしまうと家族といえど共に過ごす事はなくなり、関係を断つ事もできてしまうのも現実である。
ただこの一家のように幼少期は一般的な家庭のような時間を過ごせず苦しみはしたが、時間はかかっても最後は幸せな家庭を築くのまた家族の一つの形であり幸せな事だととても実感させられた。
この作品においては家族の形というものにスポットが当たっているがもちろん他のことにも置き換える事は可能だ。
人間誰しも完璧な姿や理想な姿を夢見る。その思いが強ければ強いほど現実と理想の差に絶望し壊れてしまう事もある。
人間誰しも壊れる事もあり、逃げ出す事もある。壊れたから、逃げたからもうダメなのではなく、人生は短いようで長くもある。人よりも遠回りをしたとしても夢や理想を諦める事なくゆっくりゆっくりと自分のペースで向かう事の大切さを改めて感じさせてくれる作品であった。
今年もいろんな映画作品を見てきたが、自分にとってはトップクラスに好きな作品であった。