劇場公開日 2021年2月11日

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「日本人が好きそうなフレンチ・ポップで少しダークリー」マーメイド・イン・パリ バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0日本人が好きそうなフレンチ・ポップで少しダークリー

2021年2月15日
PCから投稿

近年、社会派なフランス映画ばかりで、あまり日本に輸入されてこなかった、これぞフレンチ・ポップというべき鮮やかな色彩感覚のファッション性をもったファンタジー・ラブストーリーを久しぶりに観た気がした。

『愛しのアクアマリン』『スプラッシュ』など「人魚姫」という世界各国で使い古された題材であり、ディズニーも『リトル・マーメイド』の実写化を進める中で、あえてその題材に触れることへの挑戦心は良い

演出や小道具にワザと作り物感を残すことで、メルヘンと現実の融合に成功していて、観ているだけでお洒落さを感じるという、正に『アメリ』の印象を引き継ぐかのような日本から見たステレオタイプのお洒落フランス映画ではあるのだが、今作の監督マチウス・マルジウの初長編監督作品にして、日本では未公開となったアニメ映画『ジャック&クロックハート 鳩時計の心臓をもつ少年』を観てもわかる通り、誰が言っているのか知らないがフランス版ティム・バートンと言われているらしく、ダークリーテイストを好む監督でもあるだけに、今回もダークリーな部分がスパイスとしての役割を果たしている。

好きになってしまった人間は心臓発作を起こして死んでしまうというというか、見た人、存在を感じた人という無差別的な死神や悪魔のような能力をもっている人魚のルラだが、様々な出来事によって、人を愛するという心が死んでしまっているガスパールだけには、その能力が適応されない中で、好きになるか、ならないかの間の焦らし合いを描く。

その間にも実際に何人か死んでしまって、幸せだった夫を殺された妻がルラを狙って復讐しにくるという、復讐劇もあるのだが、被害者であるのに、悪役かのような、なかなかの酷い扱いである。

復讐劇があるからといって、全体的にスローテンポでスリリングさは感じられないが、そんな時でさえ、良くも悪くも独特の雰囲気が漂っている。

ガスパールの中にあった、人生を楽しむ精神みたいなものを呼び起こすと身体的には死ぬことになる「禁断の恋」という、もっとサスペンス的でドラマチックなアプローチもできた題材のはずだとは思うが、そこはあえて現実的な葛藤は反映させなかったのだろう。絶妙な加減のメルヘン臭も残しているのだ。

よく「こんなに幸せなら死んでもいい」ってセリフがあるが、「なら死んでください」という皮肉的なアンサーをされているようでもある。

独特の時間の流れと、独特の空間演出、現実に人魚が現れたら~というリアルな部分もみえてくるが、忘れた頃にメルヘン演出がすかさず入るという、決して傑作とは言いにくいが、なかなか中毒性のある映画ではあるだろう。

「あれどういうこと?」「今のおかしくない?」なんて論理的に細かいことを気にしていたら観ていられない、雰囲気を楽しむ作品なのだ。

ルラ役のマリリン・リマは少し顎がしゃくれていて、リース・ウィザースプーンを小柄にした様な顔立ちではあるのだが、時々見せるあどけない表情がルラの心情とリンクしていて、無意識にも無邪気に人を殺している恐ろしさもありながらも、人間と人魚の倫理観のズレによってそうなっているだけなんだという妙な納得もさせられてしまう。

バフィー吉川(Buffys Movie)