「推定無罪の重要性」私は確信する REXさんの映画レビュー(感想・評価)
推定無罪の重要性
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フランスで一番物議を醸したとされる「死体無き殺人」事件の裁判を映画化。
日本ではなじみのないこの事件、いかに複雑なのかと身構えていたら、意外とシンプルで、それ故検察が推定無罪をまるで無視し、状況証拠だけで被告人を犯人と断定するのかまるでわからなかった。
フランス人には説明不要であるのだろう事件の背景は端折られているので、スキャンダラスに発展するまでの経緯は日本人には伝わりづらい。
監督は実際にこの事件の裁判を傍聴し、被告人の無罪を確信してこの映画を作りたいと考えたそうだ。語り手のノラは唯一フィクションの存在だが、監督の立場を代弁した存在といえる。
高圧的で雄弁な検察、策略家めいている行方不明の妻の愛人、ひたすら寡黙な夫。
観客から見ると愛人が限りになく怪しい。語り手のノラも、愛人が真の犯人だと確信し弁護の手伝いをする。しかし愛人の虚言や行き過ぎた行動も、もしかしたら夫が怪しいと確信している故の行動なのかもしれない。…と、観客自身も常に自問自答しなくてはならず、そのもどかしさが苦痛にも感じる。
ノラの確信はついには盲信となる。物的証拠がないまま突き進む裁判のなか、あらためて「推定無罪」の重要性を説く弁護士の姿になんと安堵したことか。
人が人を裁くことの危うさを思い知らされる。
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