「暗殺決行の瞬間に向けてキリキリと弓が引かれるような緊張感」KCIA 南山の部長たち 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
暗殺決行の瞬間に向けてキリキリと弓が引かれるような緊張感
たまたま大河ドラマ「麒麟が来る」が大詰めを迎えているが、韓国で権勢をふるった朴正煕大統領を側近のKCIA部長が暗殺した事件は、まるで織田信長を明智光秀が討った本能寺の変のようだ。動機は諸説あるが、首謀者に「世のため民のため」という“義”があったとする説に立つ点でも「麒麟が来る」と共通する。
ウ・ミンホ監督は2作前の「インサイダーズ 内部者たち」でイ・ビョンホン(破天荒なヤクザを熱演)と組み、韓国のR指定作品として歴代最高の動員数を記録した。同監督の「スパイな奴ら」も配信で観たが、いずれもケレン味あふれる演出という印象。だが今作は実際の暗殺事件に基づくこともあってか、ソリッドでストイックな演出に徹している。イ・ビョンホンも打って変わって七三に固めた髪に眼鏡でイケメンオーラを封印し、大統領からの理不尽な命令に追い詰められていくKCIAのキム部長を的確に演じた。いくつもの出来事と状況が積み重なり、大統領暗殺という究極の一手に至るまで、場面場面の丁寧な心理描写でじわじわと緊張が高まるさまは、弓がゆっくりとキリキリと引かれていくかのよう。放たれた矢と同様、決行はほんの一瞬だが、そこに至るサスペンスの盛り上がりこそが本作の肝だ。
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