劇場公開日 2021年1月1日

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「昭和感とクンフー映画への愛が溢れるどこまでも微笑ましい温故知新系香港アクション」燃えよデブゴン TOKYO MISSION よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0昭和感とクンフー映画への愛が溢れるどこまでも微笑ましい温故知新系香港アクション

2021年1月8日
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鑑賞方法:映画館

それは2013年2月10日、今はなきシネマート六本木にブルース・リャン主演の『燃えよ!じじぃドラゴン 龍虎激闘』を観に行った時のこと。颯爽と現れて客席についた一人の客の姿に、自分含む全観客6名(恐らく全員映画秘宝読者)が息を呑んだ。

・・・谷垣さんだ。

数多のアクション映画でスタントマンを演じ海外でも活躍する谷垣健治さんを知らない者はそこにはいなかったが、谷垣さんですよね?と話しかけるKYな奴もいなかった。我々はスクリーンでブルース・リャンの老いてもなお切れ味鋭いクンフーを堪能し、ニコニコしながら客席を後にする谷垣さんを無言で見送った。

そして私は映画の余韻を楽しみながら六本木駅から日比谷線に乗り込むと、目の前にまた谷垣さんが・・・。

そして谷垣さんは持っていた紙袋の中から取り出した黒い箱を開けて中から一体のフィギュアを取り出した。

・・・それ、『葉問』のドニー・イェンやん!

またニコニコしながらドニーのフィギュアを愛おしそうに眺めた後谷垣さんは下車して行きました。
そんな谷垣さんとドニーの美しい友情をこの目でちゃんと目撃しているわけで本作がハズレのわけがないです。

香港の刑事フクロンは女優のホーイとの結婚を控えていた時に立ち寄った銀行で強盗と遭遇、派手な追跡で警察署長を激怒させてしまい証拠品保管室勤務に異動。ホーイにも愛想を尽かされたフクロンは来る日も来る日もクンフー映画を観ながらジャンクフードを貪り食っていたら半年で120キロを超す肥満体になってしまう。そんな折上司の頼みで日本人の重要参考人を日本まで護送する任務を引き受けたフクロンだったが、護送中に逃走されてしまう。このままでは香港に帰れないフクロンは上司の友人シウサーの協力を受けて捜査を開始するが・・・。

冒頭、劇中に登場する東京タワーは本物ではありませんと釈明するテロップが入る時点で、じゃあ東京タワーが重要な舞台なんやねと解る親切なインストラクションから始まる本編は温故知新に満ちた作品。これ昭和の『燃えよ!デブゴン』とは何の繋がりもない作品でそもそも脚本もプロットも適当。参考人を護送するのにわざわざ静岡か山梨を経由(単に富士山をバックにしたかった?『大福星』へのオマージュかも)、築地市場とテロップが出るのにやけにシャビーな魚市場だったり(ロケ地は成田市場)、無駄な日本ロケがどうにもこうにも昭和風味。さらに昭和風味に拍車をかけているのが結構贅沢なセット撮影。50メートル四方程度に切り取られた歌舞伎町で暴れ回るドニー師父がもうジャングルジムで戯れる子供のように妙に嬉しそうなのが眩しい。徹底的にコミカルな演技を披露する師父ですが、そのアクションの切れ味は普段通り。切れ味鋭いハイキックから何からバッシバシに見せてくれます。もちろん圧巻なのはラストシーン。ここで繰り広げられる格闘は本当に素晴らしいのでここだけ切り取っても十二分に正月映画。日本といえば富士山と東京タワーだろ?とスカイツリーをガン無視する圧倒的な昭和イズムにウルッときました。

本作、何気にクンフー映画へのオマージュが満ち溢れていて、ブルース・リー師父のフッテージがチラチラ引用されますし、ドニー師父自身の『導火線 FLASH POINT』と『SPL 狼よ静かに死ね』の名シーンがチラッと再現されます。フクロンの自慢話として挿入されるシーンなので要らないっちゃ要らないシーンなのにしっかり作り込まれていて、お話の適当さに全然見合っていません。そして昭和感を醸しているのは竹中直人。演技そのものは手抜き感満点のお気楽なやつですが、令和の時代に見れるとは思わなかったブルース・リー物真似はある意味クライマックスに匹敵するかも知れないです。このキャスティングは絶妙でした。

そしてヒロインのホーイを演じるニキ・チョウのキュートさ。バンバン殴られて目の周りに青アザという令和にアリとは思えない昭和メイクがバッチリ似合う21世紀のマギー・チャンと言っても過言ではないでしょう。こういうタイプのコメディエンヌは絶滅したかと思いますので今後の活躍を期待します。

そしてエンドロールを飾るのは正月映画には欠かせないアレ。谷垣監督やドニー師父らが気の合う仲間を集めて楽しそうに撮影している様が垣間見えてニヤニヤしてしまいました。そういえば劇伴のオーケストラが何気に豪華で耳を惹きましたが、ちゃんと本編用にオーケストラを読んで新録してるんですね、そんなところにも力を抜かない辺りにも昭和感が滲んでいます。

ということで尻尾の先まで正月映画でしたが最終的に観客3名、多分全員同い年のオッサン。もはや昭和を懐かしむ人間も少数派ですが、今中国資本が映画産業を牛耳ってるわけですから、かつてのショウ・ブラザーズのようにお正月向け豪華キャストのバカアクション作ってもらえないですかね、令和の『キャノンボール』を世界中のアラフィフが待っています。

ということで明けましておめでとうございました。

よね