ペリー・メイスン : 特集

2020年10月19日更新

ロバート・ダウニー・Jr.が心血注いだ“渾身の一作”
加速度的に面白くなる秀逸ミステリー…見どころを解説

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目の肥えた映画ファンに、ぜひともオススメしたい作品がある。「ペリー・メイスン」(BS10 スターチャンネルで10月27日から毎週火曜午後11時放送開始)というタイトルのドラマだ。

今作のジャンルはミステリー、言うなれば“探偵もの”だ。なぜ映画ファンにオススメするのか? それは、「アイアンマン」「アベンジャーズ」シリーズで知られるロバート・ダウニー・Jr.が、10年以上も映像化を熱望していた“悲願のプロジェクト”だからである。

第1話を見始めるときは、注意が必要だ。1シーズンは全8話、長すぎないボリュームなので完走するのに大きな負担はない。しかも回を追うごとに、加速度的に面白さが増していく……つまり一度見始めたら、もう止まらない。場合によっては、朝までノンストップで視聴することになるかもしれないので、気をつけてほしい。

この特集では、今作の見どころを紹介。さらに記事後半では、「その世界観に夢中になった」と語る小西未来氏(ゴールデングローブ賞の選考に関わる日本人ジャーナリスト)のレビューも掲載している。


【予告編】探偵の名はペリー・メイスン やがて“最も有名な弁護士”になる男

視聴する方法は、BS10 スターチャンネルでの放送か、またはAmazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」での配信。

また、10月25日の午後7時45分からSTAR1にて第1話(字幕版)が無料放送され、さらに11月4日にはSTAR3にて第1話(吹替版)も無料放送されるので、加入のうえチェックしてみてほしい。

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【作品概要】国民的人気を誇る傑作ミステリーがベース
熱中必至! 過激&スタイリッシュに描く至高の全8話

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[制作経緯]「アベンジャーズ」ダウニー・Jr.が10年間も熱望した一作

作品の魅力のひとつは、その制作背景にある。「シャーロック・ホームズ」(2009)で希代の名探偵を演じたロバート・ダウニー・Jr.が、次なる作品として選んだのがこの「ペリー・メイスン」だった。11年に、彼の主演兼プロデュース作として映画化が始動した。

一度は企画が頓挫したものの、公権力(検察や警察)の腐敗などをより濃密に描くべく、映画ではなくドラマシリーズへと舵を切り再出発を果たした。16年、ダウニー・Jr.と妻のスーザン・ダウニーが制作総指揮を担い、「ゲーム・オブ・スローンズ」などのHBOとタッグを組むことが決定。それから約4年、長い準備期間を経て、悲願の作品が日の目を見ることとなった。

アメリカでは、コロナ禍にあえぐ20年6月21日に放送開始。辛口批評サイト「Rotten Tomatoes」では、83%支持(批評家スコア)と高評価を得た。視聴者にも人気を博し、最終回放送を待たずしてシーズン2への更新が発表され、話題となった。

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[物語]“アンチヒーロー”の私立探偵 謎が謎を呼ぶ怪事件に挑む

ペリー・メイスンとは、米作家E・S・ガードナーの推理小説に登場するキャラクターだ。1957年にはレイモンド・バー主演「弁護士ペリー・メイスン」としてドラマ化され、さらに85年にも「新・弁護士ペリー・メイスン」として映像化。アメリカでは、誰もが知る有名なキャラとして認知されている。

原作は、主人公の辣腕弁護士が数々の難事件を解明していく“法廷もの”だ。対して今回の新ドラマでは、主人公は弁護士ではなく私立探偵へと変更。人気キャラであるペリー・メイスンの前日譚を描く“ミステリー”として、新たに生まれ変わっているのだ。

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舞台は1931年のロサンゼルス。世界中が大恐慌に苦しむ一方、石油産業と映画産業が隆盛を極めていたこの街で、残忍な乳児誘拐殺人事件が起きる。そんな折、従軍経験でトラウマを抱え、私立探偵としてその日暮らしを送るペリー・メイスンのもとに、旧知のベテラン弁護士から、件の事件の調査依頼が舞い込んできた。彼の運命が、大きく動き出していく。

ミステリードラマは“1話でひとつの事件=1話完結”がスタンダードだが、今作は“1シーズンでひとつの事件”の構成。第1話で乳児誘拐殺人事件は解決せず、それどころか謎の新興宗教団体や、腐敗した警察組織などが次々と登場し、思いもよらぬ領域へと展開。全8話の物語は、後半へ進むにつれ加速度的に面白くなっていくので、目が離せない。

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[キャスト]主役は人気急上昇中の注目俳優 M・リス×T・マズラニー

主役のこの2人、映画ファンにはまだ馴染みが薄いかもしれない。しかし、今後さらなる大作映画で多く目にする可能性が高いため、注目しておいて損はない“注目株”だ。

ペリー・メイスン役には、ダウニー・Jr.と旧知の仲であるマシュー・リス。アメリカに潜入したスパイ夫婦を描くドラマ「ジ・アメリカンズ」で人気を博し、近年はトム・ハンクス主演映画「幸せへのまわり道」でも存在感を示している。

さらに物語の鍵を握るカリスマ宣教師シスター・アリス役には、ドラマ「オーファン・ブラック 暴走遺伝子」でブレイクしたタチアナ・マズラニー。彼女はマーベル新作ドラマ「シー・ハルク」の主演に抜擢されており、さらなる世界的活躍が期待されている。

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[最高品質]制作はHBO 「ゲーム・オブ・スローンズ」などヒット作連発

制作を担うHBOは、最高品質の作品を世に送り出すことで知られている。世界的な社会現象を巻き起こした「ゲーム・オブ・スローンズ」を筆頭に、実際の原発事故をベースに描いた未曾有の作品「チェルノブイリ」など、ヒット作を連発する“業界のガリバー”だ。

後述のレビューで詳しく言及するが、今作もクオリティは非常に高い。演出は「ザ・ソプラノズ」「ボードウォーク・エンパイア 欲望の街」「ゲーム・オブ・スローンズ」などの大作を手がけた重鎮ティモシー・バン・パタン監督。スタッフ陣の名だけでも、見て損はない、と感じられる。

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また、今作「ペリー・メイスン」も配信されているAmazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」では、ほかにも力作を配信中。

J・J・エイブラムスと「ゲット・アウト」のジョーダン・ピールが制作総指揮を担う「ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路」や、J・J・エイブラムスとジョナサン・ノーランがタッグを組んだ「ウエストワールド シーズン3」などを見ることができる。

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【レビュー】GG賞の選考担うジャーナリストも夢中!
小西未来「こんなに贅沢な時間はない」

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ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属し、同賞への投票権を持つ小西未来氏(フィルムメイカー/映画ジャーナリスト)。ロサンゼルスに在住し、世界最高峰のステージで活躍する彼も、今作の魅力にどっぷりと浸かった1人だ。熱のこもったレビューを、以下にお届けする。


■絶滅した“純粋なフィルムノワール”… 2020年、正統な傑作が登場した

小西未来 お気に入りの映画ジャンルのひとつに、フィルムノワールがある。ひとくちにフィルムノワールと言っても、皮肉屋の主人公や危険な美女(ファムファタール)、倫理観のないキャラクターたち、影やコントラストを強調した映像、腐敗が蔓延る社会、破滅に向かうストーリー展開など、特徴はさまざまだ。

強引にまとめれば、「過ぎ去った時代を舞台にしたダークな犯罪映画」と言いかえられるかもしれない。

たいていは探偵が誰かの依頼を受けることから物語がはじまる。だが、謎ときの楽しさや、悪者を追い詰める痛快さに重きを置く多くのミステリーやサスペンスとは異なり、(フィルムノワールは)主人公が闇の世界に足を踏み入れていくプロセスに重点が置かれている。

そのため先の展開が読みづらいし、明らかにされる人間の業の深さに打ちのめされることもある。登場するのは、日常では絶対に関わりたくないような人々ばかりだが、法やモラルや世間体に縛られている僕らからすれば、欲望の赴くまま生きる彼らは裏通りに灯るネオンのように怪しく輝いてみえる。

金と権力、セックスとバイオレンスが渦巻く裏社会の人々を、映画館、あるいは、お茶の間という安全な場所から観察する。その背徳感こそがフィルムノワールの醍醐味なのだ。

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スタイルがあまりに特徴的なためか、フィルムノワールはパロディにされやすく、1940年から50年代をピークに廃れてしまう。70年代に「チャイナタウン」(ロマン・ポランスキー監督)や90年代に「L.A.コンフィデンシャル」(カーティス・ハンソン監督)という傑作が生まれたものの、純粋なフィルムノワールはほぼ絶滅。

現代を舞台にした「ヒート」(マイケル・マン監督)や「ブルーベルベット」(デビッド・リンチ監督)のようなネオノワール、「ブレードランナー」(リドリー・スコット監督)、「マイノリティ・リポート」(スティーブン・スピルバーグ監督)などSFと掛け合わせたフューチャーノワール、あるいはティーンドラマと掛け合わせた「BRICK ブリック」(ライアン・ジョンソン監督)などに枝分かれしており、クリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト」シリーズも、アメコミとフィルムノワールをかけあわせたものと言えよう。

だが2020年、正統派フィルムノワールの傑作が登場した。名作ドラマをつぎつぎ放ち、米テレビドラマを牽引するHBOの最新作「ペリー・メイスン」がそれである。

メイスンは、たとえばシャーロック・ホームズのような品行方正な探偵と大違いだ。人気俳優のスキャンダルを写真に収め、映画会社から金をゆすり取ろうとする完全なアンチヒーローである。

やさぐれて、酒に溺れているものの優れた推理能力を持つ彼が、腐敗した警察組織や新興宗教、トーキーへの移行で勢いを増す映画界が絡みあうダークな世界に分け入っていくことになる。

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■物語の軸は「主人公の成長」 そして最大の魅力は「過ぎ去った時代」

「ペリー・メイスン」を楽しむ上で、原作に関する知識は不要だ。だが、「伝説の弁護士キャラクターの誕生物語」であることだけは、頭の片隅にいれておいたほうがいいかもしれない。メイスンは欲望と陰謀が渦巻く世界に分け入っていくわけだが、これが前日譚である以上、彼が破滅したり、殺されないことがあらかじめ分かっている。

実際、8話を通じて、アンチヒーローだった彼が、無実の罪に問われた人々を助けることを使命とする弁護士に変わっていく。事件や物語世界はダークだが、主人公の成長が軸になっていることを知っていれば、安心して没頭できるに違いない。

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個人的には、「ペリー・メイスン」の最大の魅力は、1930年代のロサンゼルスそのものだ。1930年代といえば、アメリカは恐慌のまっただなかだが、ハリウッドの映画産業は潤っていた。無声映画からトーキーに切り替わったことに加えて、生活苦にあえぐアメリカ国民が映画に現実逃避を求めたからだ。

過ぎ去った時代を再現するために「ペリー・メイスン」には巨額の制作費が投じられ、衣装や小道具、美術、VFXに至るまで手抜きがない。かつてレイモンド・チャンドラーの探偵小説を読んでいたときに、ぼんやりとイメージしていた世界がそのまま広がっているのだ。こんな贅沢なことはない。

しかも2時間で終わってしまう通常の映画とは異なり、8時間も満喫できるのだ。コロナ禍で現実逃避を必要としている現代人にもぜひお勧めしたい。

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海外ドラマ「ペリー・メイスン」(シーズン1、全8話)

<放送>
STAR1 字幕版 10/27(火)より 毎週火曜よる11:00 ほか ※10/25(日)第1話無料放送
STAR3 吹替版 11/4(水) より 毎週水曜よる10:00 ほか ※11/4(水)第1話無料放送

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<配信>
▼Amazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」
【字幕版】 配信中

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