「中国による中国人のための映画」愛しの故郷(ふるさと) Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
中国による中国人のための映画
10月の「2020東京・中国映画週間」では満席となった映画なので、どんな映画か知りたくて観に行った。
この作品に対して、“国策映画”という評価はあたらないと思う。少なくとも、政治的な作品群ではない。
なぜなら、国内あるいは国外に向けた、プロパガンダの要素は乏しいからだ。
基本的には、貧しかった過去を思い出しつつ、現在の国力の隆盛を、中国人自ら誇って悦に入る作品群だ。
美しいところだけをピックアップした、“中国人による、中国人を喜ばせる愛国映画”なのである。不潔な、あるいは、醜悪な部分は描かれない。
だから、こんな“愛国映画”は“地産地消”すれば良いのであって、日本のような外国で上映する価値はないと言っていいだろう(在留中国人向けを別にすれば)。
中身はコメディー、あるいは、コメディータッチの5つの作品群である。そして、いずれも“感動的ラスト”が演出される。
ただ、第5話を除けば、コメディーとしてはイマイチである。
(1)健康保険に係わる“なりすまし”
映画「薬の神じゃない!」の超小粒バージョン。
(2)山深い村に現れたUFOと発明家
楽しい作品ではあるが、貴州の昔の少数民族の地域に、漢民族が植民して開発し、それを“便利になった”と無邪気に自慢している傲慢さが、自分には感じられた。
(3)認知症になった元教師に、教え子たちが贈る授業
巨大な人造湖の近くの農村風景の、ノスタルジア的描写である。
(4)昔は黄砂の舞っていた村を、緑化したリンゴ栽培家
緑化政策の自慢であるが、称賛されるのは当局ではなく篤志家である。
(5)妻に偽って、過疎化した村に貢献する画家
発信地が分からないスマホの特性を利用して、ニセの風景を映し出してロシア留学を装う。設定に無理があるが、王道のコメディーだ。
自分が一番興味を惹かれたのは、“ベタ”なコメディー要素だった。
この“ベタ”さは、インド映画のやり方に、実によく似ていた。おそらく、意識して貪欲に取り入れていると言っていいのではないだろうか?
何事もコピーして、次第に自家薬籠中のものとしていく中国のたくましさが、自分には感じられた。