劇場公開日 2022年2月4日

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「思っていたのと違った(笑)」鈴木さん きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0思っていたのと違った(笑)

2023年11月1日
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レンタルの「お笑い」の棚にあった本作品なんですが。
吉本漫才やらM-1グランプリシリーズやらのコーナーに、この特徴ある「肖像画」のジャケットをこちらに向けて置いてあるんだし、
誰だか知らないけれど「たぶん女芸人のコスチューム形態模写?」あたりのDVDなのだろうと思って何げに手に取りました。

違いましたね。

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「ユートピア」という名前の、廃業したラブボを使った老人ホームの物語。
ディストピアな日本をえぐる物語。

げげ!
75年前なら大逆事件だよ。
特高警察が飛んでくるだろうこの反国家思想の映画はなんだ !? ww

神国日本のあるべき姿 として
どこかで聞いたぞ、このスローガン
「美しい日本」。
「美しすぎる日本」をば標語にして、長期にわたり国民を煽り続けたあの宰相とその政権をパロっていることは、これは誰の目にも明らか。

・布マスクを後生大切に押しいただく国民(コロナの窮地に下賜されたからなおさら強力に心を掴まれるし)。
・「生産性のある国民」になるための、“国家総動員体制”での女たちへの結婚•出産圧力、
・腕にはナチス政権が施したのと同じ番号の入れ墨が。
⇒これはマイナンバーシステムを、その《真意》については絶対に口を割らず、「国民皆背番号制」付与を執拗に推し進める政府を暗喩しているね。
そして
・神国日本への報恩•献身をば こと更に強調するモデルケース。
「補助金」と「勲章」欲しさの感心な臣民隊長⇒あちこちにいる田舎町長〜田舎知事への おちょくり。

さらには
隣組の自警団の監視とか、
マイクロバスでの徴兵・非国民狩りとか。
そして、産めないならば兵隊になって国に詫びて償うべきなんだと、恫喝はエスカレート。
「井戸に毒物」とか、
「隣国のスパイの噂」とか、
これはもう、飛び交うセリフが地雷Wordの連発ですな。

劇中では
“実は本当は洗脳されていなかった総務省の役人”を、その部下が政府に代わって粛清するという、狂気の密告シーンがありました。
そして関東大震災の頃、
体調不良でお隠れになり、早世したあの天皇の行状も模されていて、自転車に乗って叫び続ける鈴木さんの姿によって、それは畏れ多くも再現がなされていたのでした。

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昨今のドキュメンタリー映画
「パンケーキを毒味する」
「妖怪の孫」
「国葬の日」とはまた違って、本作はドラマ仕立ての社会派の異作でした。
低予算で大至急で撮られたらしいのですが、稚拙ながら《急所》を突いています。

近年、「お国の役に立たず、足手まといになった臣民は死ぬべきなんだ」とする同調圧力の「プラン75」が映画館でかかって、まだ日も浅いですし、
折しも疑心暗鬼の嵐の中で起こった震災の虐殺事件「福田村事件」も上映しているさなかですもの。

時代の空気に黙しておれずに
いま撮るべき映画を!と、佐々木想監督が急遽の発信をしたということではないでしょうか。

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【観終わって 思うこと】

しかし、
あの時代にあっても、
また現代でも、
そして迫害のさなかや戦火の地にあっても、この世界の片隅には、自らの幸せと命をなげうって、薄給で、あるいは無給で、「老人の介護」をしている現場の福祉関係者たちがいる。
敵味方関係なく介護をする篤志家たちがいる。
地べたをはいずり回ることを自らに良しとするエッセンシャルワーカーたちが存在してくれている。

そうやって
兵隊にもなれず、子を産むこともできず、国のお荷物になって生産性のない老人たちのことを 命懸けでかばう人たちがいるのです。
「偽装工作」をして、偽の婚姻届を出してでも、弱い年寄りたちのために職場を守ろうとしている人たちがいるのです。

現人神のカミサマが、
嫁き遅れた44歳の介護士を救出するために 自転車で単身警察署に向かい、道中村人たちによって撲殺されてしまったという、涙なくしては観られない映画。
哀しくて、愚かで、絶句させられてしまう映画だった。

僕は特別養護老人ホームの介護職員をしていた経験があるのです。
だから、ヒロインのよしこと鈴木さんの“愚行”がよく分かる。
あの二人に対してこそ、頭を下げ、手を合わせたくなる思いがわいてくる。

ホンマの神はそこにいたじゃないか。

・ ・

思っていたのと違いました。
驚きながらのDVD鑑賞でした。

きりん
きりんさんのコメント
2023年11月2日

大方斐紗子が歌う
「佐賀箪笥長持唄」。
よしこのための、祝言の絶唱。

きりん