皮膚を売った男のレビュー・感想・評価
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現代の寓話を超えたところにあるもの
なるほどそうきたか、と思わず手をうった。衝撃や驚愕とも違う、ゆっくりと沈み込んでいくような現代の寓話がそこには刻まれていた。あの揺れる列車の中でヒロインへの愛を高らかに宣言したときの、何も怖いものはない、と言わんばかりの満ち足りた表情。かと思えば、次のシーンではその自信がいとも簡単に崩され、国を追われるまでになる皮肉。それからいろいろあって王子様とお姫様はめでたく結ばれましたーーーとなるのがストレートな寓話ならば、本作はそこに変数が差し込まれる。それが”アート”の存在だ。それも主人公がアートそのものに化してしまうという皮肉。そうやって皮肉に皮肉が掛け合わさり、いつしか立場が何度も反転していく流麗さは見惚れるほどだが、そこで「はいおしまい」にはせず、主人公たちを元の場所へと立ち戻らせようとするところ、そうするための展開をもう一つ盛り込むところに、願いや祈りにも似た作り手の崇高な意志を感じた。
難民、アート、越境、戦争、テーマがてんこもり
電車の中でテンションが上がり過ぎて政治批判をしちゃったことが発端で、逮捕→役人が親戚で逃げられる→ヨーロッパでひよこ選別で生計立てつつ、アートイベントで食べ物をくすねる人生。
施しを与えようとする芸術家の助手に、くたばれ、っていうシーンは尊厳とは…と思ったねぇ。
同じ人間なのに、生まれた場所と人種でこんなにも人生が変わってしまうのか、、という感想は日本でぬくぬくと育ってるからだろうな。
逃げなきゃならん彼氏(主人公)を待てず、彼女が保身で体裁結婚するのもわかる。
いやいや、あぶねえもん。女は精神的には強いけど、フィジカルは男には勝てねえよ。
主人公の体がいい。筋肉がいい感じでムキムキ。
最後は巨匠も逃がさへんでー!って感じかと思いきや、本当に空飛ぶじゅうたんで自由を与えてて、嬉しいラストだった。
人として越境できない私が商品として越境する
あらすじを読んでぜひ観たいと思ったが、実際見てみたら、思ったほど暗いものではなく、現代の難民と、現代アートの問題を絶妙に絡めた、ブラックユーモアも少しあるような作品だった、
とはいえ、ラッカに暮らすサムの家族、母親は足を失い家には男の家族はいない。
現代アートと言われて流通するものはうんざりだ
現代でなくてもそうなんだが、
アートは金額で価値が決まるものではない。
0円になるか億単位の値段がつくかは、作品そのものには関係ない。
バンクシーが痕跡を残した壁、ただのコンクリートを剥がして売る奴がいる。
最後サムの背中は、、、ヒューマントラフィッキングの問題難民避難民の問題オークション現代アートの金をめぐる問題それにシリアの国内密告と圧政暴政、当時落下を制圧していたISの問題、
そんな中ギリギリの駆け引きみたいなことをしているが、サムが彼女との電話での稚拙な駆け引きじみたやり取り、突然シリアの列車の中で革命自由結婚!とはしゃぎ出すところ、飄々と、システムの中でアーティストとしての地位と金儲けしながら本当にやりたいことを実現している作家、モニカベルッチの美しきたくましい仕事ぶり、、、
ネタバレしますが最後はあっけらかんとハッピーエンドで、えっ?!となりました。
テーマが面白く、これでシリアのことにも興味が湧くなら素晴らしいと思う
モニカベルッチ
どの立場で見るかによって評価が分かれる
シリア難民の背中のタトゥを芸術作品として発表し、最後にオークションにかけるという話。
これはシリア難民のことをバカにしているという人権問題と考える見方と
難民の背中を芸術作品として、好きなところに行けるという特典付きという見方
それによって評価が分かれてくる。
ただ、自分の背中を提供すると決めたのは自分である。だから、まわりがとやかくいうことではない。それでシリア難民の地位を下げることになるのであればそれはまた別の問題である。
意思のある芸術作品とみていくと、安直にOKしたものの彼にしかできない人生を送ったのだと認めてあげたい。静かに暮らしたいという彼の願いもウィットに富んだ結末で離ればなれになった恋人と一緒になれたのは救いである。
内戦が続くシリア。 恋人アビール(ディア・リアン)と一緒に乗った列...
内戦が続くシリア。
恋人アビール(ディア・リアン)と一緒に乗った列車の中で浮かれたサム(ヤヤ・マヘイニ)は、そのときの発言がもとで当局から政治犯としてにらまれてしまう。
しかたなくレバノンへ脱出したが、アビールへの想いは募るばかり。
一方のアビールは、身の安全を心配した両親から、国外避難の道として外交官事務補佐の男と結婚させられ、欧州へ移ってしまった。
そんなある日、日々の食い扶持にも困ったサムが潜り込んだ芸術家ジェフリー・ゴッドフロイ(ケーン・デ・ボーウ)のエキジビジョンの場で、そのジェフリーから奇妙な申し出をされる。
それは、サムの背中を売ってほしいというもの。
サムの背中をキャンバスとしてアートタトゥーを彫る、サムは美術品の一部となり、大金とヨーロッパへの移住が可能となるというもの・・・
といったところからはじまる物語で、アート界で実際にあった事件にインスパイアされた監督のカウテール・ベン・ハニアが脚本も書いて映画化したもの。
発想自体も面白いが、実際にアートとしてあったというのだから驚きです。
映画は、アートというものへの皮肉な視点によって、物語自体に潜むヒューマニティ的な要素すらシニカルに描いていきます。
こう書くと、なんだか堅苦しい映画のように思えるけれど、映画の底に流れているのはサムとアビールのロマンス要素であるので、シニカルでありながらも、ある種のぬくもりのようなものを感じます。
映画は後半、アート作品と化したサムはオークションに懸けられ、そのオークションの場でとんでもないことをしでかします。
ここは、ヨーロッパにおける中東人への偏見がひしひしと感じられます。
中東の民といっても全員が全員、イスラム教徒ではなく、この映画でもアビールは髪を覆い隠していないところから察するに、ふたりはキリスト教徒かもしれません。
(実際、シリア人の1割ほどはキリスト教徒)。
最終的に、サムとアビールは故郷シリアのラッカに戻るのだが、サムはISに捕らえられてしまい・・・
と、ここから先は、アッという展開。
ちょっと人を食ったような決着にはニヤニヤしました。
アート映画ならぬ、アッと映画ですねぇ。
追記>
芸術家ジェフリーの作品をプロデュースする女性ソラヤ役の女優さん、モニカ・ベルッチに似ているなぁ、と思っていたら、あらビックリ。
モニカ・ベルッチでしたわぁ。
通訳と見せかけての
彼女との関係の行く末はどうなるのか、アート作品としての価値を存続できるのか、シリア人という境遇とどう向き合うのか、そして彼の望む自由は手に入るのか?どれもがメインとなっても良いテーマ。独特な設定から比較する作品が思い当たらず、どのような結末を迎えるのかと持続的に興味が湧きましたが、最後はまさかの展開からの皆がwin-winとなる結果で綺麗に収まったなと感心しました。
通訳と見せかけて彼女が彼に愛を示すシーンは、その演出に思わず心を奪われました。
現実をライト感覚で皮肉った良作
シリアの戦禍と文化と人々の日常の同居感が最初のシーンにまず描かれていたなと思った。
結婚前の男女が人前でイチャイチャするのも良くないのかな?彼女は外交官との縁談が来るようなお金持ちで身分の違いからなのか?
そして、電車の中で発した一言が取り返しのつかないような事態に…
なんとか逃げられた緊張感、彼女のお屋敷に行き着いた挙句の高い壁、惨めな感じをそそるボタンを掛け違えたままのシャツ姿の主人公…
個人的に心がギュッと痛かったのは、お母さんとのスカイプ通話のシーン。こんな状況で主人公の人権がどうとか、人身売買だけに視点が向いていたのは私も同じ。
母国がどういう状況で家族の安否を気にしないなんてダメダメです、主人公も私も。
お母さんの脚、これもシリアの現実。
ガセネタ動画でハッピーエンド。
芸術は残るし、芸術家は名声を得たし、主人公は自由だし、主人公の家族にも多額のお金をきちんと払われていたし、彼女も無事に戻ったし。
よくできた作品だと思う。
実は昼間にやっている映画館を探して車で1時間かけて観た。この日この回は私の貸切だったのが残念だったな。
生きるための死
オンライン試写にて鑑賞。
正直、今作のタイトルを見た時に思ったのは違法な医療作品なのかなと思ったのですが、中身を開けてみたらビックリ、重厚な人間ドラマでした。でもこの考えも後々ある種の正解だったという事に気づきます。
自分はアートを見かける時に美しい、キレイだなと思うのですが、同時に怖いと思う事が多々ありました。この映画を観てよりそう思う事は正しいんだろうなと思いました。
サムの背中を欲しがる芸術家、よくよく考えたら人間の皮膚を買うというのは人身売買のようにも思える恐いシーンなのですが、お金と芸術、互いの思惑が合致した結果、その話は円満的に進むという衝撃的な展開になっていきます。
自分が美術品になり展示される、見せ物にされる、心無いことを言われる、サムの根気も中々なものですが、どんどんと諦めていくシーンも背中からひしひしと感じていて言葉の無い演技も濃いものに仕上がっていてとても良かったです。
内紛や差別、倫理観など社会的な問題も各場面に散りばめられており、しかもどれも邪魔になっていないのが凄い。1フィクションと思って鑑賞していたら、現実と密接している作品で、もっと知識を蓄えて見たら良かったなと少しだけ後悔しました。
終盤のオークションのシーン。自分が競り落とされるのはもうホラーですし、取引額もアートとして見れば高い部類に入るのかも知れませんが、人間としての価格と見れば異様な安さです。そりゃ逃げ出したくもなりますよ。
最後、サムが銃で撃たれ死に、皮膚だけ切り取られ飾られるという感情を揺さぶりまくって映画は終わりを迎えます。でも、死ぬ前に「これは生きるための死なんだ」都胸を張っていたので、これはハッピーエンドなのかバッドエンドなのか。検討もつきません。とても難しいのに面白い作品でした。
鑑賞日 11/2
鑑賞方法 オンライン試写会にて
大きすぎる自尊心と無価値すぎる自分
シリア難民や個人の自由が抑圧された社会をテーマにしているようだけど、もっと普遍的なものも感じられた。
それは、自分自身の無力感、劣等感、非存在感。
この激しい感情は国や文化を問わず、若者に普遍的にある感情なんではないだろうか?(男性の方が感じやすいと思うけど)
主人公はあとさき考えないで軽率に行動してしまうし、身の丈に合わない強すぎる自尊心があって、他人の気持ちや迷惑を考えることが苦手で、公共心がなくて…、正直言って彼が苦境に陥ることが自業自得すぎてまったく同情できない、のだが、これって無力感に苛まれている若者に共通の傾向ではないだろうか?
成長していって、社会を知って、現実を知るほど、自分が何者でもない、社会に必要とされていない、無価値とみなされていることに打ちのめされる。
自分が今のままでは無価値であることを受け入れて、「だから他人から必要とされる存在になろう」と前向きにがんばれれば理想だが、みんながみんなそんな強くない。
主人公は、背中のタトゥーによって自分の価値が高くみなされるほど、皮肉にも生身の自分自身には何の価値もないことを自覚してしまい、苦しむことになる。
ただ、そんなふうに苦しむ主人公よりももっと「哀れ」な人々も描かれている。
それは、彼を商品として買ったり、オークションに興じたりする富裕層である。彼らの姿は本当に醜い。金銭的価値がすべてを測る尺度になってしまい、自分たちが人間としておかしいという感覚すらも失ってしまったようにみえる。
最後のオチはちょっと非現実的に思えて、微妙だった。培養した人工皮膚に同じタトゥーを入れても、絶対に同じ見かけにはならないだろう。
それよりも、彼の背中の皮膚を切除して、培養した皮膚を移植して治療した方がはるかに現実的だろう。彼の背中にはひどい傷跡が残ることになるにしても。
素の肌、タトゥーの入った見せかけの価値をもった肌、傷の入った肌、という変化を見せることによって、よりテーマの深みも増すと思う。
究極の渡航手段
難民になってしまった故の究極の渡航手段とは言え、タトゥーを入れ、商品として売買されていくのは、人権や自由を無くしてしまう事ですね。最後の展開が少しホッとさせてくれました。
切ない
電車内でプロポーズ代わりに言った言葉に
「自由」とか「革命」という単語があったばかりに
不法逮捕され、シリア難民だから簡単に出国も出来ず、プロポーズを受けてくれた恋人にも会えない人が、
背中にタトゥーを了承することで芸術作品として国外へ合法的に行くことや一流ホテルの滞在なども可能にしましたが、
投獄されていた間に恋人は自分がいなくなったと思い込み別の人と結婚してしまったし、
何か頼み事をされても「ただの『展示品』の俺に何が出来る?」としか言えないせつなさがあり、
展示されている間の自分を
「大金が稼げる良いアルバイトしてるぜ」
と思うか
「出国するためとはいえ、何故不特定多数の人に背中を晒して見世物にならなきゃいけないんだ?」
と思うか
なんとも切なく難しいテーマでした。
ラストの展開は予想出来ないもので、そこまで悲劇的ではないかもしれませんが、彼には今度こそ彼女と静かに穏やかに平凡に幸せになってほしいと願いました。
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