「現代の寓話を超えたところにあるもの」皮膚を売った男 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
現代の寓話を超えたところにあるもの
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なるほどそうきたか、と思わず手をうった。衝撃や驚愕とも違う、ゆっくりと沈み込んでいくような現代の寓話がそこには刻まれていた。あの揺れる列車の中でヒロインへの愛を高らかに宣言したときの、何も怖いものはない、と言わんばかりの満ち足りた表情。かと思えば、次のシーンではその自信がいとも簡単に崩され、国を追われるまでになる皮肉。それからいろいろあって王子様とお姫様はめでたく結ばれましたーーーとなるのがストレートな寓話ならば、本作はそこに変数が差し込まれる。それが”アート”の存在だ。それも主人公がアートそのものに化してしまうという皮肉。そうやって皮肉に皮肉が掛け合わさり、いつしか立場が何度も反転していく流麗さは見惚れるほどだが、そこで「はいおしまい」にはせず、主人公たちを元の場所へと立ち戻らせようとするところ、そうするための展開をもう一つ盛り込むところに、願いや祈りにも似た作り手の崇高な意志を感じた。
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