劇場公開日 2021年6月4日

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「【家族の物語】」トゥルーノース ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0【家族の物語】

2021年6月9日
iPhoneアプリから投稿

物語はフィクションだが、TEDカンファレンスに登壇して、北朝鮮の強制収容所の経験を語ると云うスタイルで、実在の人物をモデルに3Dアニメにしたのかと思わせられる。

TEDは、テクノロジー、エンターテイメント、デザインの頭文字の略で、世界中の著名人によるさまざまな講演会を主催・配信などしている非営利団体だ。

ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブスなどハイテクを牽引してきたビジネスリーダーから、グレタ・トゥーンベリなど環境活動家、日本の町工場の社長・伝統工芸家など幅広い人々のスピーチに触れることができるし、強制収容所ではないけれど、実在の脱北者の公演も配信されている。

作品は、監督の清水ハン英治さんの膨大な強制収容所からの生還者を含む脱北者とのインタビューをベースに構成させているのだが、日本からの帰還事業で北朝鮮に渡った家族が物語の中心で、「焼肉ドラゴン」も思い出した。
他にも日本人妻を想起させる登場人物もいて、拉致被害者のことも考えさせられる。

(以下ネタバレ含みます)

強制収容所内の出来事には、生き抜くための辛さや、或いは、醜さ・争いなども垣間見られるものの、絶望を乗り越えようと手を差し伸べあう人々の優しさや、若者の背中を押す強さ、管理する側にも善意の人が描かれていることなど人間性とは一体何なのだろうかと考えさせられるし、予想もしていなかったエンディングには心を締め付けられる。

フランクルの「夜と霧」のことも思い出した。

映画は、膨大な脱北者のインタビューを背景にしつつも、強制収容所の過酷さや体制の残酷さより、こうした中にあっても耐え抜こうとする人間の物語を描こうとしたのだと改めて思わせられる。

実写だと目を覆ってしまうような内容もアニメだから、冷静に観れると云う良さもあると思う。
「FUNANフナン」でも同様に感じた。

北朝鮮の瀬戸際外交や、核・ミサイル開発などのニュースに触れると、北朝鮮の人間が全て悪者のように感じられてステレオタイプになりがちだが、改めて体制と人々は区別して考えるべきだと思うし、体制転覆は外からは困難だとしても、脱北者を国際社会としてどのように受け入れるべきか、北朝鮮の友好国で新疆ウイグル族へのジェノサイドで非難されている中国にどのように国際社会は対応すべきか再考するなど必要なのだとも思う。

日本はリーダシップを取れるだろうか。

公開劇場は多くはないけれども、出来るだけ多くの人の目に触れたら良いと思う。

ステレオタイプにならずに考えて欲しいと思う。

ワンコ