「老人たちの孤独な現実を浮かび上がらせ、ある種の“喜劇”へ昇華させた感動作」83歳のやさしいスパイ 和田隆さんの映画レビュー(感想・評価)
老人たちの孤独な現実を浮かび上がらせ、ある種の“喜劇”へ昇華させた感動作
冒頭はドキュメンタリーっぽくなく、まるでドラマのような感じで、アル・パチーノの写真が映ったりする。だが不意に83歳の主人公・セルヒオを捉えていたカメラの後ろにドキュメンタリーを撮っている監督やスタッフがいることが映し出される。ドキュメンタリーでありながら、フィクションとの境界線を敢えて曖昧にすることで、リアルな人間の冗談のような本当の話こそが、まるでフィクションのようなドラマとなり得ることを描こうとしているようだ。
この作品を魅力的にしているのは、なんといってもセルヒオの人柄である。雇われスパイであることを隠し、老人ホームに同じ入居者として潜入してみると、誰よりもやさしくて涙もろく男前な彼は、スパイなのにホームのおばあさんたちの人気者となってしまう。そして、いつしか入居者たちの良き相談相手となった新人スパイが見つけ出したのは、老人たちの孤独、彼らの心の叫びだった。
だが、この作品が深い感動を呼ぶのは、老人たちの孤独な現実を重く受け止めるだけでなく、同じ老人でありながら、生きがいを求めて新人スパイとして奮闘するセルヒオを通し、ある種の“喜劇”へ昇華しているからではないだろうか。
コメントする