劇場公開日 2021年5月27日

「【弱肉強食のファッション界のあれやこれやと、ディズニー】」クルエラ ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【弱肉強食のファッション界のあれやこれやと、ディズニー】

2021年6月3日
iPhoneアプリから投稿

僕はファッション業界の人間ではないので、間違っていたら恐縮だけれども、有名なブランドは、インターナルのデザイナーを複数抱え、彼らを競わせ、使い倒して、新進気鋭のデザイナーを発掘、そして育てて、古い人はマネジメントに加わったり、場合によっては去るものもあったりして、新陳代謝を図りながら、ブランド価値を可能な限り引き上げ、それをベースに消費を刺激し、お金回りの良い国・地域に重点を置きつつ、世界に侵食していっていると思う。

もし人気デザイナーが独立なんて考えようものなら、全力で潰すなんてことは、かなりの高確率であるように信じている。

まあ、このクルエラの世界観そのままで、競争のなかでは、妨害や追い落としなどがあるのだろうなと想像してしまう。

バロネスは、財産独占を考えて、赤子殺害を命じたり、エステラの育ての親を崖から落としてみたり、クルエラに対しても例外ではない。

高級ブランドは、新進気鋭のデザイナーは一見、あなた達(世の中のお客様)が発掘したんですよみたいに見せかけて、消費者の気分をアゲアゲにしておいて、実は、ブランドが発掘して、契約で雁字搦めにし、たっぷり宣伝費もかけて、計画的に消費者をマインドコントロールするように購買意欲を掻き立てているのだ。

これだって、やっぱりクルエラの世界観に通じるように思う。

そして、人々は実体のないブランド価値に熱狂し、クレジットカード決済の金額が膨らんで、高級ブランドは儲かり、その市場価値をどんどん高めていく。

世界の株価の時価総額ランキングの上位は、疑いようもなく、アメリカのアップルやマイクロソフト、アマゾンなどが占めるが、日本の時価総額トップのトヨタは、世界的には35から40番くらいだろうか。
日本でトヨタの次にくるソフトバンクグループや、ソニーは世界のトップ50には入らない。

そして、フランスを代表する高級ブランド複合企業LVMHの時価総額は、高級ブランド企業の中でトップであるだけでなく、トヨタを上回る時価総額となっているのだ。

LVMHは、傘下に、ルイヴィトン、Dior、FENDI、ジバンシー、ロエベ、KENZO、時計のタグホイヤー、飲料のモエシャンドンやヘネシーを持ち、買収による拡大を続けていて、アメリカのティファニーが最近これに加わった。

ヨーロッパには、他にグッチやサンローラン、ボッテガを傘下に持つケリングや、ダンヒル、クロエ、カルティエなどを所有するスイスのリシュモンといった高級ブランド複合企業があるが、クルエラの舞台となったイギリスのバーバリーは少し劣るが、いずれも大きな時価総額企業だ。

こうした多くの老舗のブランドを飲み込んで巨大化していく背景には、グローバルなマーケティング展開のコスト増大と、ファストファッションの台頭によるブランド価値の多様化、更なる競争の激化があるように感じる。

H&MやZARAのような北欧スペインのファストファッションは、買収などに依らず、ヤングアダルト向けブランドを独自に立ち上げたりして、自己増殖して大きくなってきているのだ。
UNIQLOとGUも同様だ。

こうした新興勢力と闘うために買収合併を繰り返す。
頭の叩き合いバトルだ。
業界全体を巻き込んだクルエラの世界だ。

ただ、ファッション業界も岐路に立っている。
残酷という理由で、動物の皮革や毛皮製品を取りやめるブランドも出てきている。
H&Mやナイキは、搾取労働を理由に、新疆コットンの仕様を止め、アメリカは新疆コットンの使用を理由にユニクロ製品の一部輸入差し止めを行なっている。

そういう意味で言うと、素材などで差別化が困難となり、ファッションデザイナーは、その意味で重要な気もするが、所詮はマーケティングに踊らされて、消費者が購買意欲をそそられているのだと考えると、あまり良い気はしないし、モヤモヤした気持ちは募るばかりで、陽のエステラと陰のクルエラのように揺れ動くとは、こんなことだろうかと考えて苦笑したりもする。

まあ、世界のファッションシーン自体が弱肉強食で大変だということだ。

日本も過去に百貨店や商社が海外高級ブランドを買収したケースはあったが、経営ノウハウが不足していたことや、海外展開のノウハウも少なかったことで撤退を余儀なくされている。
実際、日本の老舗ブランドは負け組に入ることが多い。
ダーバンやアクアスキュータムを持つレナウンは民事再生を断念し破産手続きをすることになってしまった。
もう随分前になるが、三陽商会は、提携していたバーバリーを失い、バーバリーは日本で独自展開している。
こんなふうに書いたが、日本のファッションシーンは、少し世界と異なるように思う。
東京ガールズコレクションなどを見ると、独立した新たなブランドも多い様に思うし、淘汰も激しい気がする。
だから、日本のファッションは注目されても、世界に対抗するような大企業は生まれにくいという反面、若いデザイナーの活躍する場所が、トップダウンではなく、ボトムアップであるように思えて、確かに自転車操業的にも見えるし、悲喜こもごもあるにしても、これは決して悪いことではないのうに思うのだ。

そして、よく考えてみたら、アトラクションと古参のアニメだけではサバイバルが困難になって、スターウォーズなどを傘下に収め、配信ビジネスにも進出し、あれこれ悪戦苦闘しているディズニーにもクルエラの世界観は通じるなと思ったりもする。

AmazonがMGMを買収し、アップルがディズニー買収を目論んでるみたいな噂もある昨今、ディズニーの人達は、どんな気持ちでクルエラを見てるのだろうか。

昔ながらのブランドだけで生きて行けた時代を懐かしんでいるのだろうか。
それとも、これからは攻めだと、頭の叩き合いバトルを想定しているのだろうか。
もし、そうだとしたら、くだらない映画をマーケティングに踊らされて見る機会が増えるような気がして、少し暗澹たる気持ちにもなる。

ワンコ
talismanさんのコメント
2021年6月3日

ハイ・ブランドは価格を高く高くして希少価値を作り、それを欲しがる消費者を作って満足させてあげてビジネスを回してく、ですね。その手にのるかー!LVMHは勿論、ファスト・ファッションも、怪しくてその手にのるかー。だから大変です。着物も大変だし。

talisman