パリの調香師 しあわせの香りを探してのレビュー・感想・評価
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遠くを見るんだ。すぐそばを見るんじゃないぞ。
トータルで見ると王道のストーリーとも言えるかもしれないが、自分は、ろくでなしの中年男性と人間関係不得意な中年女性のダメダメなところを双方キチンと描きつつ、それでも互いにほんの僅かずつ、プラスの影響を与え合っていくささやかなエピソードの積み重ねに好感を持った。
人が1人生きていくには、常に公明正大になんて言ってられない時もある。元を正せば、確かに因果応報かもしれない。けど、どんなにダメダメな人でも、これだけは譲りたくないもの、すがり続けたいものはあるし、それを大切にしてもらえなければ生きてはいけない。その部分の圧倒的な肯定が、フランスっぽいなぁと感じたし、この映画の大好きな部分。
「遠くを見るんだ。すぐそばを見るんじゃないぞ。」
さりげないセリフだが、何て含蓄のある言葉だろうか。
とにかく、展開がとても自然なので、2人の不器用さや、ちょっとしたツイてなさにクスッとしつつ、観ているうちに、主人公たちの行く末を案じたくなってくる。
ラストに向けての後半の畳みかけが、自分は特に気に入った。
そんなに香りには詳しくない自分にも、教室の場面は、まさに画面から香りが漂ってくるようでワクワクした。
観た後に爽やかな気持ちになれる良作。
鼻炎の多い日本人
アロマ関係の資格を持つ私としては、憧れの仕事調香師。
そのほかにも、絶対音感や唎酒師のような才能に恵まれた人は素敵だと思う。その反面ストレスや体調管理に大きく影響されることを考えると、苦労や不安は並ではないだろう。
4人に1人はアレルギー性鼻炎の日本人(私もその1人)には、なかなか調香師や唎酒師になるのは難しいと思うからこそ、より、憧れてしまう。
才能があればある程、その人自身をお金に換算して考える人は周りに多くなるだろう。だから、彼女の悩みは深まり、女王様気質で気難しくなってしまう。そんな彼女にギヨームは彼女自身の問題点に目を向けてくる辺りに彼の人柄や優しさをほのかに感じる。
Dior協力の元に創られたこの静かな温かみのある作品の品の良さをジャドールの香りを嗅ぎながら味わいたい作品。
やさしすぎる運転手
ラスト15分で完結
クボタだ
誰かと何かを分かち合うこと
『パリの〜』『しあわせの〜』という邦題ダメダメ要素が二つも入っているタイトル、生れながらに嗅覚の鋭さは持っていたにせよまったく素養なしの人間が“匂い”を仕事に出来るだろうかという疑問はあるにせよ、この作品を評価したいのは、この二人の出会いを安易に恋愛に持って行かなかったことにある。
運転手としての能力にも疑いのある(嵩む減点、料金所でのスマートさに欠けるetc.)ギョームではあるが、娘と過ごす時間を大事にしているという一点に関しては間違いないし、どこか人好きのする人柄は、人付き合いが苦手で親しい友人もいないアンナの心を開いていく。
アンナの助言はギョームに自信をもたらし、ギョームの素直な心はアンナに誰かと何かを分かち合うことの心強さ、充実感をもたらす。
男女が(二人の人間が)出会ったからといって、必ずしも恋愛に至るわけでもなし、そうでなくとも充実した人間関係を作ることが出来る、今作はそういうことを改めて教えてくれた。
“香り”、“匂い”に関する仕事がこれほど多岐にわたるというのも興味深かった。
天才的な嗅覚を持った女性調香師とかなりいい加減な性格のドライバーが...
どんな分野でも究めるとすごいよね
J'ADORE ジャドール=大好き。
塩尻市の東座。
久しぶりに近所の小屋へ行きました。
「男」とか「女」だとか言うのはあまり好きじゃないけれど、素敵な女支配人が切り盛りしている、とても小さな映画館です。
彼女がいる日は当たり。
いない日は・・ハズレです。
(おじさんご免なさい)。
雨の夜です、今夜はお目当ての彼女はいるでしょうか?
・・笑笑・・《😉♪》 でした
雨の夜にバイクで行った甲斐があったというものです。
本日の出し物は「パリの調香師」。
受付でその美しい彼女がチケットにディオールの「ジャドール」を吹いてくれます。
そして細い手をスッと伸ばして、白く長いムエット(紙片)にもう一種類の香りを、僕に手渡しながら
「映画の最後にこの香りの答えがわかりますよ」とニッコリ。
たった4人の観客ですが、明かりの落ちた館内には ほのかにジャドールが漂います。
🎵
で、
映画が終わりまして、(えっ!もう終わりかよ)
出口の受付前で、くだんのヴィーナスが微笑みながらお客をひとりひとり見送ってくれます。
とうとう今夜も渡せませんでしたよ、ポケットの中の小さなDiorのイヤリング。
たいして何も語れずじまい。 ― 僕のお気に入りはパルファムDior Hommeだってことも。
もしおしゃべりが弾めば昼間の愛車でのドライブはGUCCIのENVYの香りだってことも ― 。
この映画館は、
町内のレストランとコラボして「映画に登場したお料理を鑑賞後に食べにいける♪」なんていう粋な企画もやるんですよね、
映画って、そうなんですよ、“五感”で楽しみたいし、今回の“香り”ももちろんそう。
映画館の前に立ったときからきょうの物語は始まっています。切符売り場から映画は始まっているんです。
・・・・・・・・・・・・
抱きたる汝が細き手を夏ツバメ
ほどき飛びたちジャドールと叫び
・・・・・・・・・・・・
追記:
おっと!
映画の中身には何も触れていませんでしたねー(笑)
嗅覚を失って入院してからのアンヌの眼差しが、ホント穏やかで良かったなぁ。失意の度合いに反比例して、人間の匂いに目を覚ましていくあたりです。
新型コロナウイルスが収まりません。「嗅覚の危機」です。
僕がワイン工場を辞めたのも、薬石効なく、花粉症のせいでした。年間3ヶ月は鼻がバカになります。それではどうにも仕事にならないのです。
本作品の主人公=香水の調香師や、ワイン、ウイスキーの醸造家たち、そして料理人やソムリエ等。彼ら「鼻」が生命線である練達者にとっては、コロナ・ウイルスはまったく恐怖そのものだと思います。
エール大学の教授がラジオでレポートしていました ―
「味覚や嗅覚の低下、そして引き起こる体のだるさ。これらコロナの典型的な症状を研究して判ったことは、定説に反してこのウイルスは首から上、つまり脳の内部にまで侵入して神経系をおかしている」
と。
・
夏草の香り
刈り取ったばかりの青草を渡る風
降り始めた夕立の気配
泣きながら顔を埋めたぬいぐるみ
乳臭い生まれたばかりの弟
おばあちゃんの家の夏休みの匂い
中学校の図書館
あと何分で炊き上がる~御飯釜
お線香、蚊取り線香、網戸を抜けてくる夜風
やわらかい晩秋の腐葉土
カビてゆく根雪
そしてもちろんあれね、
お母さんがお布団干しをしてくれた日の幸せ
etc. etc. etc.
「嗅覚を失うこと」がどれほど僕らにとって残念なことか気づけば、コロナの恐ろしさは、それはそれは気を失なうほどです。
がんばれギヨーム
【”香りの世界”に閉じこもっている調香師と、ハイヤーの運転手。心に傷を負った二人の関係性の微妙な変化を繊細に描いた作品。】
■感想<Caution! 内容に触れています。>
・アンヌ(エマニュエル・ドゥボス)は、且つては一流ブランド”DIOR”の香水の調香を任されていた天才調香師。だが、現在は一度、嗅覚に異常を来した事が理由で、革製品の悪臭緩和などの仕事に甘んじている。
そして、彼女は香の世界に長年閉じこもっているためか、他者とのコミュニケーションが上手く取れず、それが高慢に取られることも屡々だ・・。
ー 嗅覚の繊細を維持するために、アンヌがハイヤー運転手のギヨーム(グレゴリー・モンテル)の煙草を箱ごと、窓から捨てるシーン。彼女の性格も一発で分かる・・。ー
・ハイヤー運転手のギヨームも妻と別れ、愛娘レアと時折会う事が生き甲斐のようだ・・。だが、仕事は不安定で、過去に交通違反を何度か犯した事で、職の維持も危うい・・。そんなギヨームがアンヌのハイヤー運転手として雇われ・・。
ー 二人の関係性は、序盤は宜しくない。ギヨームは”アンタは荷物を運べと命令するだけで、礼の一つも言わない!”と吐き捨て、アンヌの元を去るが、再びアンヌから指名を受ける・・。アンヌはギヨームの嗅覚の鋭さに、少し気付いていたのではないかな?ー
・アンヌが仕事や人間関係のストレスで睡眠薬を過剰に摂取してしまい、ギヨームは救急病院へアンナを届けるが、スピード違反で職を失い・・。
ー アンヌとギヨームの関係性が、大きく変わった出来事である。そして、アンナは懸案の工場から排出される煙の臭い対策を考えるため、ギヨームの嗅覚を頼る・・。ー
<アンヌとギヨームの人物造形が独特であるが、二人とも相手が”傷を抱えた”似た者であることを、気づいて行く過程が、面白い。そして、アンヌとギヨームの関係性が、徐々に変化していく・・。小粋な作品である。>
<2021年3月28日 刈谷日劇にて鑑賞>
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