「【”どうかこの歌が、彼らに届くように・・”2021年の香港の現況を見ると、苦い想いが残るドキュメンタリー作品。だが、2019年までの香港民主主義のために、大国と闘った民衆の記録として価値ある作品。】」デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”どうかこの歌が、彼らに届くように・・”2021年の香港の現況を見ると、苦い想いが残るドキュメンタリー作品。だが、2019年までの香港民主主義のために、大国と闘った民衆の記録として価値ある作品。】
ー 前半は、デニス・ホーさんがポップス歌手を目指す姿と民主主義思想が彼女の中で形成されて行く過程を、描いている。
後半は、1997年に香港が英国から中国に返還された後、大国からの容赦ない”政治的取り込み”に対する民衆の激しい抵抗と、その中での彼女の姿が描かれる。ー
◆感想
・デニス・ホーさんのご両親(特に父親)の、子供を育てる思想が素晴しい。(というか、当たり前の事を仰っているのだが、英国統治下の香港でも、政治思想的には不自由だったらしいことが語られる。)
一家でカナダ・モントリオールに移住し、デニス・ホーさんは彼の地で、民主主義思想の大切さを身体で覚える。(余りシッカリとは描かれないが・・。)
又、彼女が尊敬、崇拝(に近い)した故、アニタ・ムイさんに憧れ、歌手を目指す姿も描かれる。
ー 前半は、一人の若き女性が成長する姿を捉えているが、やや粗い・・。ー
・デニス・ホーさんは歌謡コンテストで優勝し、一人香港に居住するも、仕事は殆どなく、漸く3年後にアニタ・ムイさんの弟子になる。が、アニタさんは40歳で早逝し、彼女は本格的に自分の道を歩み始め、中国でもポップスターになるが・・。
ー この辺りで、ドキュメンタリーの軸は、一気に香港の反中国政治運動を映し出して行く。やや、構成が粗い気がするが、鑑賞続行。ー
・雨傘運動の盛り上がりと、衰退の描き方は、それまで知識と、僅かなメディア映像でしか知らなかったので、臨場感を持って鑑賞出来た。
そして、彼女が”ポップスターの地位を捨て(ざるを得なかった・・。)”デモの先頭に立ち、警官達に”民主的に話し合おう”と呼びかける姿や、強制連行される姿も。
ー それにしても、中国を統べる男の、香港に対する政治的スタンスの取り方の巧さには悔しいが、舌を巻く。
雨傘運動の際も、民衆にやらせるだけやらせ(三か月のデモ。対応するのは当たり前だが、香港警察。)矛先を、キャリー・ラム香港特別行政区行政長官に向けさせ、民衆を徐々に”もう駄目だ、大国に逆らっても無駄だ・・、”と”諦観”に持ち込むやり方。
キャリー・ラム香港特別行政区行政長官の後ろには、当然、”全人代”が巨岩の様に居るので、殆どの香港市民も諦めざるを得ない・・、という訳だ。
そして、学生運動家黄之鋒さんや周庭さんを、見せしめのように獄に繋ぎ、一方ではひっそりと、民主主義支援をする弁護士や、知識人を拘束するのだ。
”真綿で首を絞める”と言う言葉は、現代のプーさんが統べる国が、香港を取り込む手段に見事に当て嵌る、と私は思う。ー
・今作では、2019年までのデニス・ホーさんが、国連で中国の行いを流暢な英語で批判し、世界に助力を求める姿が、屡映し出される。
ー だが、その後、香港で到頭、稀代の悪法”香港国家安全維持法”(何が、国家安全維持だ!)が制定され、上述したように周庭さん達は、維持法違反で獄に繋がれるのである。ー
<デニス・ホーさんの、後年政治的思想を帯びるようになった歌を全人代を統べる男が聴くことはあるのだろうか・・。>
■数年前、驚愕した事。
・中国の工場に出張で行った時に、現地採用の若者と話していたら、彼らの殆んどは天安門事件を知らなかった(もしくは、知らないフリをしていた)事である。
彼の国の言論統制が半端ない事は経験していたが、
この作品でも映されていたが”オイオイ全世界が、戦車の前に独りで立ち向かった英雄の姿を見ているんだぞ・・”と驚愕したものだ。
人民を粗末にする国は、滅びるのが歴史の常だが、プーさんの国は、今のところ盤石である・・。
<2021年8月22日 刈谷日劇にて鑑賞>